大分県別府市に位置する星野リゾート「界 別府」は、地域の伝統と職人技に触れる特別な滞在を提供する温泉旅館です。この宿では、ただ温泉を楽しむだけでなく、「手業のひととき」と称される体験を通じて、訪れる人々にその土地固有の文化やものづくりの背景を深く理解してもらいたいと願っています。特に注目されるのは、一度は途絶えた幻の焼き物「臼杵焼」の復活とその物語であり、旅人たちは作り手の情熱に触れ、地域とのつながりを感じることができます。
この物語に心を動かされた「界 別府」のスタッフ・金澤まり子さんは、この「臼杵焼」の再生プロジェクトに強く共感し、旅人にその物語を届けたいと企画を提案しました。昔のものをただ復元するのではなく、現代の暮らしに合わせて新しい価値を創造する「臼杵焼」の精神は、「界 別府」が目指す「ドラマティック温泉街」のコンセプトとも深く通じ合います。作り手である宇佐美裕之さんもまた、自身の作品だけでなく、ものづくりに込められた思いや歴史を伝える「手業のひととき」の趣旨に賛同し、この共同プロジェクトが実現しました。
歴史と伝統が息づく「界 別府」の魅力
大分空港から約50分に位置する「界 別府」は、旧別府港に面した北浜地区に佇む歴史ある温泉宿です。明治時代の開港以来、多くの湯治客で賑わい、別府温泉郷の発展を支えてきたこの場所は、宿のコンセプトである「ドラマティック温泉街」を体現しています。館内に一歩足を踏み入れると、湯の広場に設けられた手湯や足湯、そして別府湾を一望できる壮大な景色が訪れる人々を迎えます。全客室は、地域の特色を取り入れた「柿渋の間」と名付けられたご当地部屋。血の池地獄を彷彿とさせる柿渋色を基調とし、大分の伝統工芸である「豊後絞り」が空間に彩りを添えています。敷地内には2本の自家源泉があり、大浴場や露天風呂付きの客室で、美肌の湯として知られるナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉を心ゆくまで堪能できます。この宿では、朝から夜へと移り変わる情景が、滞在を一層「ドラマティック」なものへと演出します。
「界 別府」での滞在をより豊かなものにするのが、「手業のひととき」という文化体験プログラムです。このプログラムは、地域の職人、作家、生産者を訪ね、その土地に代々受け継がれてきた文化や手仕事に直接触れることを目的としています。単に作品を見るだけでなく、作り手の想いや歴史、ものづくりの背景にある物語を知ることで、旅人と地域との間に深い絆を築き、忘れられない体験を提供します。別府市から車で約1時間の臼杵市にある「うすき皿山」を舞台にしたこの旅は、宿に到着する前に、まず地域の作り手との出会いから始まります。この特別な旅の始まりは、地域の文化に深く没入し、その真髄を体験するための「界」ならではのアプローチと言えるでしょう。
幻の臼杵焼を巡る「手業のひととき」
今回の「手業のひととき」の舞台は、別府市から車で約1時間の場所に位置する臼杵市にある「うすき皿山」です。この地域は、国宝である臼杵磨崖仏で知られる歴史深い町であり、その磨崖仏の山を見上げる場所に「うすき皿山」があります。ここでは、陶芸家である宇佐美裕之さんが、一度途絶えた幻の焼き物「臼杵焼」の復興に尽力しています。臼杵焼のルーツは江戸時代後期の臼杵藩御用窯「末広焼」に遡りますが、十数年で途絶え、約200年間その存在は歴史の中に埋もれていました。宇佐美さんは2015年から残された器や資料を丹念に調査し、現代の暮らしに寄り添う器として臼杵焼を蘇らせました。彼の「器は料理の額縁」という哲学のもと、白磁の美しさと花びらを思わせる優美な輪花の形を活かし、料理を引き立てる器づくりを続けています。
この宇佐美さんの情熱と物語に深く感銘を受けたのが、「界 別府」のスタッフである金澤まり子さんでした。金澤さんは、一度失われた焼き物を現代に蘇らせる宇佐美さんの挑戦を「とてもドラマティック」と評し、その精神が「界 別府」の「ドラマティック温泉街」というコンセプトと通じると感じました。伝統をただ復元するのではなく、新しい時代に合わせて進化させる宇佐美さんの姿勢に共感した金澤さんは、「この感動的な物語を旅人に届けたい」という強い思いから、この特別な企画を提案しました。宇佐美さんもまた、自分の作品だけでなく、その制作背景や込められた思いを伝える「界」の「手業のひととき」の理念に共鳴し、この共同企画が実現しました。この体験を通じて、参加者は臼杵焼の美しさだけでなく、その背後にある歴史、職人の技術、そして地域を愛する人々の情熱に触れることができます。