イタリア人が「溝なしペンネ」を避ける理由




グローバル化が進む現代において、イタリア生まれのフード&ライフスタイルライター、マッシ氏が、自身のユニークな視点から日本と世界の食文化について考察する連載を展開しています。今回は、イタリアの食卓に欠かせないパスタに焦点を当て、特に「溝のないペンネ(Penne Lisce)」がイタリア人にとってなぜ好まれないのかという、日本人には意外な習慣を掘り下げていきます。単なる食材としてではなく、その形状にまで深いこだわりを持つイタリア人の食に対する情熱が垣間見えます。
この興味深い食習慣の背景には、数年前のパンデミックが大きく関係しています。当時、イタリア全土がロックダウンされ、人々は食料品の買い占めに走りました。スーパーマーケットの棚からは、バリラやディ・チェコといった人気ブランドのパスタがあっという間に消え、普段はあまり手に取られないような珍しいパスタも姿を消しました。しかし、そんな混乱の中でも、まるで避けられているかのように棚に残されていたのが、表面がつるつるした「溝なしペンネ」でした。この現象は、イタリア人のパスタに対する強いこだわりを示す象徴的な出来事として、SNSを通じて世界に広まりました。
イタリア人にとって、パスタの表面にある「溝」の有無は、世界中の人々が想像する以上に重要な意味を持っています。イタリア語で「リーシャ(Liscia)」は「滑らかな」を、「リガータ(Rigata)」は「筋の入った」を意味し、イタリア市場のパスタの約9割が「筋入り」です。これは、ソースとの絡みやすさを追求した結果であり、溝があることでソースがパスタにしっかりと絡み、一体感のある味わいを生み出すとされています。一方で、つるつるとした口当たりを好む日本人の感覚とは異なり、イタリア人にとって「溝なしペンネ」は、ソースを十分に吸収しない「お荷物パスタ」と見なされているのです。
食文化は、単に栄養を摂取する行為に留まらず、その土地の歴史、人々の価値観、そして美意識を映し出す鏡です。イタリア人がパスタの溝一つにこれほどのこだわりを見せるのは、彼らが食を通じて人生の豊かさを追求し、細部にまで情熱を注ぐ国民性があるからでしょう。私たちの日常生活においても、何気ない選択や習慣の中に、その人ならではの深い哲学やこだわりが隠されていることがあります。食を通じて異文化を理解することは、世界をより深く知り、多様な価値観を受け入れるための素晴らしい一歩となります。