タージ・マハルと日光の社寺:世界遺産から学ぶ歴史と保全

世界各地に点在する貴重な世界遺産への訪問は、多くの人々にとって憧れですが、費用や時間の制約から実現が難しいこともあります。しかし、現代社会において、これらの遺産に関する知識を深めることは、教養を身につける上で非常に重要です。宮澤光氏監修の書籍『眠れなくなるほど面白い 図解 世界遺産』(日本文芸社)は、単なる観光案内ではなく、代表的な世界遺産の歴史的背景や登録に至った経緯を分かりやすく解説しています。本稿では、同書から「タージ・マハル」と「日光の社寺」の二つの遺産を取り上げ、その魅力を深掘りします。
インドに位置するタージ・マハルは、その宮殿のような外観から「墓」であるとは想像しがたいかもしれません。しかし、この壮麗な建造物は、ムガル帝国第5代皇帝シャー・ジャハーンが、愛する妃ムムターズ・マハルのために建立した霊廟です。タージ・マハルは、「人類の創造的資質を示す遺産」という唯一の基準で世界遺産に登録されており、その最大の特色は徹底した左右対称の設計にあります。近寄ると、大理石の精緻なレリーフ、宝石をちりばめた象嵌細工、そして外壁に刻まれたコーランの美しいカリグラフィーが目を引きます。イスラム建築様式を基盤としながらも、インド固有の伝統要素が融合されており、前後左右の四面にはペルシア由来のイーワーンと呼ばれる尖頭型アーチが配され、開放的な空間を形成しています。
皇帝と妃の深い愛情の物語は、タージ・マハルの建造に込められた精神性を物語っています。妃は遠征中に14番目の子を出産後に若くして亡くなり、皇帝は2年間の喪に服した後、世界中から白大理石、貴重な宝石、そして熟練の職人を集め、延べ2万人もの人々を動員し、22年の歳月をかけて1653年にタージ・マハルを完成させました。皇帝は当初、タージ・マハルの対岸に自身のための黒大理石の霊廟を築くことを夢見ていましたが、息子の後継者争いにより失脚し、晩年はアーグラ城(こちらも世界遺産)に幽閉され、妃の霊廟を眺めて過ごしたと伝えられています。徹底した左右対称の構造の中で唯一の例外は、棺が安置された空間です。妃に寄り添うように置かれた皇帝の棺が、二人の変わらぬ愛の結末を静かに語りかけています。
タージ・マハルは、1983年に世界遺産に登録されました。その美しいシンメトリーは、イスラム建築における均衡の美、すなわち一神教であるイスラム教における神の秩序を象徴するものとされています。建物と庭園が一体となったその姿は、イスラム教の聖典コーランに描かれる「天上の楽園」を想起させます。しかし、この白亜の霊廟は現代において深刻な環境問題に直面しています。大気汚染により大理石が黄ばみ、隣接するヤムナー川の汚染によって大量発生した虫の排泄物による汚れも深刻化しています。インド政府は、近隣地域での天然ガス以外の燃料使用の禁止や、ヤムナー川での洗濯の制限など、保護のための規制を強化しており、その環境保護の取り組みにも世界からの注目が集まっています。
このように、タージ・マハルは単なる歴史的建造物ではなく、深い愛情の物語と卓越した建築技術、そして現代の環境課題を併せ持つ、多面的な魅力を持つ世界遺産なのです。その壮麗な美しさを守り、次世代へと受け継いでいくための努力が、今も続けられています。