小宮山雄飛氏が提唱する「蕎麦屋呑み」は、単なる食事を超えた深い体験を提供します。彼が訪れた目白の「蕎麦おさめ」は、築100年の古民家を再生した空間で、店の雰囲気、心地よい緊張感、そして時間をかけて楽しむ蕎麦前(蕎麦を待つ間に楽しむ酒肴)が一体となり、訪れる人々を魅了します。店主の納剣児氏が、小学生の頃に味わった戸隠蕎麦の感動を原点に、数々の名店での修行を経て開いたこの店は、在来種の蕎麦に特化し、その時期最高の産地の蕎麦を提供しています。料理の一つ一つに込められた職人の技と心が、訪れる客に忘れられない「蕎麦屋の空間」を届けます。
歴史と伝統が息づく目白『蕎麦おさめ』での至福の蕎麦屋体験
2026年6月7日、音楽家として多方面で活躍する小宮山雄飛氏が、自身の連載「蕎麦屋呑みの名店」の第17回で、東京都目白に佇む「蕎麦おさめ」を訪れました。元々茶道の師範宅であった築100年の古民家を再生したこの店は、玄関をくぐると、都心の喧騒を忘れさせるかのような穏やかな和の空間が広がります。丹精込めて手入れされた美しい庭園を眺めながら、まるで小旅行に来たかのような趣が味わえるのが特徴です。
小宮山氏がまず堪能したのは、手間を惜しまず作られた滋味深い蕎麦前です。特に注目すべきは、3日間かけてじっくりと炊き上げられた「お通しにしん」(1,540円、税込)。身がとろけるほど柔らかく、深い味わいは熱燗とも相性抜群ですが、この日は店のワインセレクションの中から甲州ワイン「アルガブランカ クラレーザ」(グラス1,000円)を合わせて楽しんだそうです。清々しい香りの白ワインは、和の料理とも絶妙に調和し、昼下がりの優雅なひとときを演出しました。次に供されたのは、蕎麦前の定番である「玉子焼き」(1,100円)。銅鍋で丁寧に焼き上げられたこの出汁巻き玉子は、見るからにプルプルとした瑞々しさに満ちています。口に運ぶと、甘さ控えめな出汁の旨味が広がり、その繊細な食感と味わいはまさに絶品で、職人の確かな技術を感じさせます。
そして、店の主役である蕎麦には、並々ならぬこだわりが詰まっています。店主の納剣児氏は、幼少期の戸隠蕎麦との出会いから蕎麦職人を志し、長年の修行を経て、在来種の蕎麦専門の「蕎麦おさめ」を開きました。毎日「せいろそば」「粗挽そば」「玄挽そば」の3種類の蕎麦が、その時期に最高の産地から選ばれた蕎麦粉を用いて手打ちされます。この日提供されたのは、福井大野在来のせいろそば、長崎対馬在来の粗挽そば、そして鳥取日光の里在来の玄挽そばでした。それぞれの蕎麦が持つ独特の風味と食感が、蕎麦好きの心を捉えて離しません。
「蕎麦屋呑み」が教えてくれる、豊かな時間の過ごし方
今回の「蕎麦おさめ」での体験は、蕎麦という日本の伝統的な食文化が、いかに奥深く、多様な楽しみ方を提供してくれるかを改めて教えてくれました。小宮山雄飛氏が語るように、蕎麦屋を訪れることは、ただ蕎麦を食べるだけでなく、その空間全体、つまり店の歴史、職人の技、そしてそこで過ごすゆったりとした時間を味わうことに他なりません。
現代社会において、私たちはとかく効率や速さを求めがちです。しかし、「蕎麦おさめ」のような場所は、時間をかけて作られた料理を、時間をかけて味わうことの豊かさを思い出させてくれます。それは、スマートフォンを置いて、目の前の料理と空間、そして共に過ごす人との会話に集中する、真に贅沢な時間です。この体験は、日々の忙しさの中で忘れがちな「五感で味わう喜び」を再発見させてくれるでしょう。
「蕎麦屋呑み」は、単なる飲食行為を超え、日本の美意識や「おもてなし」の心、そして食文化の深さを感じさせる文化体験です。このような場所が、これからも多くの人々に愛され、日本の伝統的な食の楽しみ方を伝え続けてほしいと強く感じます。