吉田修一が語る最新作『タイム・アフター・タイム』:純粋な愛と人生の複雑な織りなす物語

純粋な愛が織りなす、時空を超えた感動の叙事詩
『タイム・アフター・タイム』:恋愛を正面から描く、作家30周年の節目
日本経済新聞での連載中から熱い支持を集めた吉田修一氏の長編小説『タイム・アフター・タイム』が、ついに書籍として発売されました。数々の話題作を手がけ、映画『国宝』の原作者としても知られる吉田氏が、作家デビュー30周年を飾る記念碑的作品として、自らの言葉で作品への思いを語っています。彼は「純粋なものと向き合ってみたい」という素朴な問いからこの物語が生まれたと明かしました。現在の自分が純粋な感情に触れた時、どのような想いが湧き上がるのか、そして、純粋であることの尊さ、奇跡のような物語を自ら読んでみたいという強い願望があったと言います。この作品の構想期間が映画『国宝』の撮影時期と重なっていたことも、吉沢亮さんや横浜流星さんといった俳優たちの真摯な姿が、自身の創作に少なからず影響を与えたことを示唆しています。
複雑に絡み合う人間模様:物語の深層と広がり
「そうした思考の過程で、これまで自分が恋愛を主題とした長編小説を本格的に書いてこなかったことに気づきました。だからこそ、今回は真正面から恋愛に取り組んでみようと、執筆を開始したのです」と吉田氏は語ります。物語は、東京の建設会社に勤める尾崎颯(通称オッソー)が、ゲリラ豪雨の後に偶然、高校時代の初恋の相手である久遠愛と再会するところから始まります。驚くことに、彼女は新美術館プロジェクトのクライアント対応を担当する広告代理店のスタッフとして、オッソーと同じプロジェクトに参加していたのです。そんな中、新美術館の建築家のデザイン盗用疑惑が浮上し、二人はそれぞれの立場から問題解決に奔走します。物語は、社会人として多忙な日々を送る東京の二人と、長崎で同じ高校に通う二人の過去が並行して描かれ、複数の時間軸と場所が交錯します。若者たちの成長、喪失と再生、親子の絆、夫婦関係、友情、そして他の恋愛模様といった多様な要素が、まるで織物のように複雑に絡み合い、奥行きのある物語を紡ぎ出しています。「恋愛をネガティブなものとしてではなく、ポジティブな側面から描きたかったのです。そのためか、物語に登場する他のキャラクターたちも、自然と物事を肯定的に捉える人々が集まってきました。彼らもまた、オッソーや久遠と同じように、懸命に人生を生きている。それが、この作品をより大きな物語へと昇華させているのだと思います」シングルマザーと小さなアパートで暮らす高校生時代のオッソーを夏の間、実家の海の家に泊める友人・一真、会社の同僚である野上、久遠の良き理解者である兄、そして彼女が心の拠り所とするボクシングジムのオーナー“チャンプ”など、吉田氏の言葉通り、魅力的な人物が次々と登場します。彼らは皆、人生を茶化すことなく、たとえ格好悪くても、失敗しても、それを受け入れながら生きている。これが物語の広がりを生んでいます。さらに本作のユニークな点は、不遇な境遇にあり、次々と悲劇に見舞われるのが、男性であるオッソーの方だという点です。恋愛につきものの障害や、悲劇のヒロインという従来の常識を打ち破り、吉田氏は少年時代だけでなく、家庭を持った大人になっても、様々な苦難をオッソーに降りかからせています。「言われてみればそうですが、あえてそうした意識はありませんでした。しかし確かに、オッソーには多くの困難が降りかかり、容赦ないですよね(笑)。そして、この恋愛を主導するのは久遠なのですから……。『タイム・アフター・タイム』は一年間、日本経済新聞で連載されましたが、連載中だけでなく、終了後も書店員さんたちから多くの温かい感想をいただきました。それらの感想を聞いていると、もしかしたら、悲劇のヒロインの物語や、障害を乗り越えて結ばれるかどうかに焦点を当てた従来の小説に対して、『もう十分だ』と感じている読者が増えているのかもしれません。私自身も、悲劇は女性にしか似合わないとか、女性でなければドラマチックにならない、という感覚は持っていません。」