山形が誇る職人技:天童木工における「バタフライスツール」の精巧な製作過程







山形の地で培われた伝統的な技術と革新的な取り組みを紐解く「NIPPON CRAFT QUEST」シリーズは、今回、真夏の山形県へと足を踏み入れました。精密機器メーカー「山形カシオ」の生産拠点に続いて、ここでは家具製造、料理、そして日本酒造りに携わる職人たちの世界を深掘りします。彼らが創造し、選び抜き、世に送り出す品々には、その土地ならではの歴史と人々の努力が色濃く反映されています。
天童市に拠点を置く「天童木工」は、その名を世界に知らしめた企業です。同社の象徴ともいえるバタフライスツールは、柳宗理によるデザインが施され、誕生から70年近くが経過した現在でも、その洗練されたフォルムは新鮮さを失っていません。蝶が羽ばたくような優美かつ力強い曲線は、いかにして生み出されるのでしょうか。その秘密を探るべく、天童市内の工場で製造過程を追いかけました。工場に足を踏み入れると、まず目に飛び込んできたのは、徹底的に整理整頓された作業空間でした。木材加工の現場にありがちな木屑や端材はほとんど見当たらず、職人たちが作業場を離れる際には必ず周囲を清掃するという規律が徹底されています。この整然とした環境から、ものづくりに対する彼らの真摯な姿勢が伝わってきます。
「天童木工」が長年にわたり追求してきた成形合板技術は、薄い板を何層にも重ね合わせ、型を用いて様々な形状を作り出す手法です。素材となるのは、丸太を薄くスライスした厚さ約1mmの単板。この単板を積層することで、無垢材では実現困難な複雑なデザインと優れた強度を両立させることが可能になります。バタフライスツールは、ブナ材の単板を芯材とし、表面に化粧板を貼る構造で、各層に接着剤を塗布し、合計9枚の板が丹念に重ねられています。この積層された木材の束を金型にセットし、独自の曲線を生み出すプレス工程へと進みます。一度に成形されるのは、スツール一脚分の左右2つのパーツです。これらのパーツは、左右に広がるだけでなく、前後にも湾曲し、さらにねじれを含む三次元的な形状をしています。一般的に、成形合板製品では、広い面積の板から複数の部材を一度に切り出すことで量産効率を高めますが、バタフライスツールの複雑な形状は、そのような一括生産を許しません。左右のパーツは金型に個別に配置され、同時にプレスされます。量産品でありながら、成形作業は一脚ずつ丁寧に行われるため、その形状の複雑さが製造工程の独自性として現れています。
卓越した技術と厳格な品質管理によって生み出される天童木工のバタフライスツールは、職人の情熱と探求心が形となった芸術作品です。このものづくりへの深い敬意とこだわりは、単なる製品を超え、私たちの生活に豊かな価値をもたらし、未来へと受け継がれていくでしょう。