平安時代の優雅なデザート、かき氷と甘葛の歴史を辿る

日本の夏の風物詩であるかき氷は、遠い平安時代から貴族たちの間で楽しまれていました。清少納言の『枕草子』に登場する「削り氷にあまづら入れて」という記述は、当時の人々がいかに氷を珍重し、その涼やかさを味わっていたかを物語っています。この一文は、削った氷に「甘葛」と呼ばれる甘味料をかけて食す様子を描写しており、現代のかき氷に通じる文化が古くから存在していたことを示しています。
この古代の甘味「甘葛煎」について深く知るため、奈良女子大学で長年研究を続ける前川佳代氏を訪ねました。前川氏によると、甘葛煎は奈良時代から文献にその名が残る、日本独自の甘味料であり、砂糖が貴重だった時代には、植物の樹液を煮詰めて作られていました。特に、ナツヅタの樹液が用いられ、冬場に糖度が増したところで採取するという、非常に手間のかかる方法で少量しか得られない貴重品でした。試飲してみると、想像以上の強い甘さがありながら、後味は驚くほどすっきりと消える、独特の風味が特徴です。
また、かき氷のルーツをさらに遡ると、奈良県天理市福住町にある氷室神社へと繋がります。この神社は「氷の神」を祀っており、その周辺には、冬に凍らせた天然氷を保存する「氷室」の跡が残されています。『日本書紀』の記述によれば、4世紀後半にはすでに氷室で保存された氷が夏に宮中へ献上されていたことがわかります。さらに、奈良時代の長屋王邸宅跡からは「氷」や「甘葛」と書かれた木簡が出土しており、これらの史料は、古代の貴族たちが甘い氷を食す文化を享受していたこと、そして現代に伝わるかき氷の原型が、はるか昔に確立されていたことを明確に示しています。
このように、日本のかき氷は単なるデザートではなく、古代の知恵と文化が詰まった歴史ある涼菓です。その歴史を知ることで、一杯のかき氷が持つ奥深さや、それを生み出した人々の豊かな感性に触れることができます。現代の技術で再現された古代の甘味料を味わいながら、私たちは時を超えて、いにしえの人々と心を繋ぐことができるでしょう。