日本のホテル市場は転換期:二桁成長から安定成長へ移行

日本のホテル市場:新たな成長局面へのシフト
日本のホテル市場における成長の変遷と将来展望
最近開催された日本ホスピタリティアセットマネージャー協会(HAMA)の年次カンファレンスで、CoStar Group/STRの日本市場責任者である櫻井詩織氏は、日本のホテル市場が現在地から2026年以降にどのように進展するかについて講演しました。櫻井氏は、これまで続いてきたコロナ禍後の活発な成長が収束し、市場は「正常な成長」フェーズへと移行していると分析しました。
市場環境の複雑化と地政学リスク
櫻井氏は、現在のホテル市場を取り巻く環境について、参加者から「以前のような勢いが感じられない」という声が上がっていることを指摘しました。中東情勢や中国との関係悪化といった地政学的な要因に加え、需要構造や季節性の変化が重なり、市場全体のトレンドがより複雑になっていると説明しました。世界市場全体では、中東地域を除けば、稼働率は堅調に推移しており、宿泊需要の伸びは緩やかになりつつもプラスを維持しています。一方、新たな客室供給の増加はさらに鈍化しており、需給が引き締まりやすい状況です。
稼働率と客室単価の相関関係
このような需給環境に基づき、櫻井氏は「需給がひっ迫している地域ほど客室単価の成長率も高い」と述べ、高い稼働率が平均客室単価(ADR)の上昇を支える構造を説明しました。日本市場の2026年5月までの12ヶ月間の平均稼働率は79.1%に達し、世界的に見ても高い水準です。しかし、2022年10月の全国旅行支援開始以降、3年以上にわたって続いてきたADRとRevPAR(販売可能客室1室あたりの売上)の二桁成長には、鈍化の兆しが見え始めています。
コロナ禍後の市場変化:単価重視への移行
櫻井氏は、コロナ禍後の日本市場が「単価とRevPARにおいて二桁成長を続けていた、世界的にも珍しい市場だった」と振り返りました。この背景には、全国旅行支援、国内の「リベンジ需要」、インバウンド需要の回復、円安、そして物価高と人手不足を受けた価格転嫁があります。コロナ禍以前の日本市場は、客室を満室にすることを優先する「稼働率重視」の傾向が強かったですが、物価高、人手不足、インバウンド需要の増加を受け、コロナ禍後は「稼働率を抑え、単価を上げてRevPARを確保する」という戦略が強化されました。今年に入り、ADRとRevPARの成長率が1桁台に移行しつつあることについて、櫻井氏は「平準化に向かう鈍化の見通しが、ついに今年現実のものとなった」と述べ、コロナ禍後の急激な回復期から、より緩やかな成長を前提とする転換期に差し掛かっているという見解を示しました。
季節変動の変化と夏季の市場動向
季節的な変動にも変化が現れています。STRの調査開始以来、内需中心だった日本市場では、夏休み期間の8月が全国平均で最もADRとRevPARが高い月でした。しかし、コロナ禍以降、ADRの最高値は2026年4月、RevPARの最高値は2025年10月を記録しました。櫻井氏は、桜の春、紅葉の秋、天候が安定する冬がインバウンドにとって魅力的な季節となり、従来の夏から繁忙期が移行しつつあると分析しました。2026年の夏については、「6月、7月、8月はかなりの鈍化が見られ、場合によってはRevPARが前年比で減少することも十分にあり得る環境」と指摘しました。
インバウンド需要の季節シフト
日本市場ではこれまで、国内旅行需要が集中する8月が最も強力な繁忙期でしたが、コロナ禍後はインバウンド需要の拡大により、桜の咲く春、紅葉の秋、そして天候が安定する冬の存在感が増しています。このため、元々高水準だった夏場の成長余地が相対的に制限され、前年比で見た場合の成長率が鈍く見えやすくなっています。しかし、これは年間を通じた需要の減少を意味するものではなく、繁忙期の中心が変化したことによる一時的な調整と見られており、櫻井氏は「秋に再び回復し、冬にはさらに上昇するという大きな流れの中で、夏ほどの鈍化や下落は見られないだろう」と述べました。4月の低迷についても、中東情勢の影響を指摘する声がありましたが、櫻井氏は「中東の影響は限定的であり、すでに最悪期は脱している」と分析しました。むしろ、影響が大きかったのは、桜の満開時期とイースター休暇が重なったことです。前年は桜の見頃とイースター休暇の時期がずれたため、4月中に需要のピークが2回ありましたが、今年は両者が重なったことでピークが1回に集約されました。この反動により、前年比で4月の伸びが鈍く見えたとの見解を示しました。
外需による市場の支えと地域特有の課題
今後の日本のホテル市場は、欧米豪からの外需が引き続き下支えとなる見込みです。特に大阪では、中国からの観光客比率や低価格帯の宿泊施設に依然として課題が見られます。市場全体の成長が鈍化する中で、地域ごとの特性と需要構造の変化に対応することが、今後のホテル業界の重要な課題となるでしょう。