早期リタイア「Coast FIRE」の概念と実践

夏の暑さに疲弊し、労働からの解放を夢見る中で、筆者は「早期リタイア(FIRE)」というテーマに深く惹きつけられました。特に「Coast FIRE」という概念は、その魅力的な響きとは裏腹に、深い洞察と現実的な課題を突きつけます。本稿では、この「Coast FIRE」の具体的な内容と、そこから得られる個人の経済観念、さらには人生設計への示唆を探ります。
「Coast FIRE」の深層:楽隠居の夢と現実
かつて英語力ゼロのまま渡英した経験を持つ元編集者の安井桃子氏(TEXT=MOMOKO YASUI)は、最近の厳しい暑さに心身ともに疲弊し、現実逃避の手段として「FIRE(早期リタイア)」について深く探求しました。その過程で、彼女は「Coast FIRE」というユニークな概念に出会います。
「Coast FIRE」とは、若年期に老後資金となるまとまった資産を投資に回し、その後の期間は、その資産が複利の効果で自然に成長していくことを前提に、日々の生活費を賄うための収入を得る働き方です。この言葉を聞いた当初、安井氏は「海岸で悠々自適に過ごすリタイア生活」を想像しましたが、英単語「coast」が動詞として「惰性で進む」「努力なしに成功する」といった意味を持つことを知り、その真意に驚きを隠せませんでした。
ケンブリッジ英英辞典によると、「coast」は「エンジンを使わずに車が進むように、通常は下り坂で」または「努力や困難なく前進したり成功したりする」と定義されています。この定義から、Coast FIREは、一度築いた資産が「下り坂を転がり落ちる雪だるまのように、自然と増殖していく」というイメージで捉えられます。
しかし、安井氏自身の過去を振り返ると、20代の頃に「人生はお金ではない」とばかりに稼ぐことよりも好きなことを優先したため、資産形成をほとんどしてこなかったと語ります。その結果、40代になった現在、若い頃に資産形成していれば、もっと楽な生活を送れたのにと後悔の念に駆られています。
彼女は、日々の生活費を稼ぎながら暮らす現在の自分の状況が、貯蓄がない点を除けば「Coast FIRE」そのものではないかと自問します。しかし、投資に回す貯蓄がなければ、資産が自律的に増えることもなく、結局「一生FIREは無理」という結論に達し、絶望を感じていると率直に打ち明けています。
FIREの多様性と個人の経済観
安井氏の「Coast FIRE」に関する探求は、早期リタイアの概念が単一のものではなく、多様な形態を持つことを示唆しています。また、彼女の個人的な経験は、若年期からの資産形成の重要性と、現実的なライフプランニングの必要性を浮き彫りにします。FIREへの憧れは多くの人が抱くものですが、その実現には、計画的な投資と自己規律が不可欠であることを、彼女の語りから改めて認識させられました。