本木雅弘、被爆者の声に耳を傾けるジャーナリスト役の重圧と葛藤を語る

2026年8月21日公開の映画『八月の声を運ぶ男』で、被爆者の証言を記録する記者を演じる本木雅弘氏は、自身の役柄と真摯に向き合った経験を明かしました。デビューから45年が経つベテラン俳優としてのキャリアを振り返りながら、今回の役作りのために訪れた長崎で感じたこと、そして演技における内面の葛藤について語っています。特に、被爆者のデリケートな感情に触れる役柄の重さ、そして共演者である阿部サダヲ氏との現場での交流が、彼の演技にどのような影響を与えたのかが注目されます。
本木氏は、映画『八月の声を運ぶ男』でジャーナリスト役を演じるにあたり、「自分のリアクションは少し硬かったり、あるいは過剰だったり、足りなかったり、と反省点が今でも残っています」と、その難しさを率直に語りました。この役は、2000人以上の被爆者から話を聞き、その半数には拒絶されながらも、証言を記録し続ける人物です。そのため、本木氏は、主人公でありながらも「受けの芝居」に徹し、静かに相手の話に耳を傾ける姿勢を追求しました。相手に語らせるための微妙な相槌や反応の加減には、特に苦心したといいます。
本木氏が感じたのは、取材における「聞く」行為の奥深さでした。一般的な取材では、記者と取材対象者との間に互いの利害が一致し、スムーズなコミュニケーションが期待されます。しかし、映画の中で彼が演じた記者の「聞く」行為は、全く異なる性質を持っていました。それは、心に深い傷を負った人々から、他者には容易に伝えられないような貴重な話を引き出す作業です。この過程では、相手に一歩踏み込みすぎることなく、かといってただ寄り添うだけでは真実が見えてこないという、絶妙な距離感を保つ必要がありました。さらに、その状況を冷静に分析し、客観的な視点を保つ意識も同時に求められ、演じる上で非常に大きな挑戦となったことを明かしています。
この役のモデルとなったのは、元長崎放送の記者であった故・伊藤明彦氏です。本木氏は、役作りの一環として、伊藤氏の元同僚にも取材を行いました。ドキュメンタリー映像で見る伊藤氏は、強い言葉を発してもどこか笑顔に見えるような、愛らしい印象の人物だったそうです。しかし、生前の彼を知る同僚たちからは、一方で近づきがたい雰囲気も持ち合わせていたという証言も得られました。真実を追求する熱意と、それに伴う強靭な精神力があったからこそ、伊藤氏は多くの被爆者の声に耳を傾け続けることができたのでしょう。同時に、自身の志が本当に正しいのかと葛藤し、心が折れそうになるような人間らしい一面も持ち合わせていたと聞かされました。本木氏は、そのような伊藤氏の内面の揺らぎを大切にし、起伏の少ない「受けの芝居」の中で、彼の人間性を表現しようと努めました。
この映画での役柄を通じて、本木雅弘氏は、真実を追求するジャーナリストの精神的な重圧と、繊細な人間関係の構築における難しさを深く掘り下げました。彼の演技は、単なる情報の記録者ではなく、被爆者の心に寄り添い、その声なき声に耳を傾ける葛藤する人間を描き出しています。