池尻大橋に佇む「パストン」:自然派ワインと心温まる料理の融合

時を忘れて酔いしれる、珠玉の自然派ワイン体験
商店街の片隅に佇む心地よい空間
商店街の裏路地に、まるで古くからそこにあったかのように溶け込む木造の建物。ガラス張りの開放的な入口は、初めて訪れる人でもためらうことなく足を踏み入れられるような、温かい雰囲気を醸し出しています。店内では、大きな円卓を囲んで気軽にワインを楽しむ人々や、カウンターでじっくりとグラスを傾ける一人客が思い思いの時間を過ごしています。その中心で、オーナーの山田隆未さんと由樹さん夫妻が、息の合った連携で店を切り盛りする姿は、見ているだけでも心地よさを感じさせます。
店名に込められた哲学「passe temps」
店の名前「passe temps(パストン)」には、深い意味が込められています。この名は、フランス・ボージョレ地方の造り手、ミッシェル・ギニエが2015年に手掛けたワインから名付けられました。隆未さん夫妻がミッシェルの素朴で優しいワインに魅せられ、その哲学に共鳴した結果です。店名に込められた「時を過ごすこと」という直訳以上の意味には、ワインの熟成や味わいの変化のように、時間の流れそのものを楽しむという思想があります。夫妻は、訪れる客が店で過ごす時間を心ゆくまで楽しんでほしいと願っています。ミッシェルのワイナリーを訪れた際、店名使用の快諾を得られたことは、夫妻にとって大きな喜びでした。昔ながらの製法でワインを造り続けるミッシェルの人柄にも惚れ込み、そのワインへの愛情が店作りの原動力となっています。
自然派ワインとの運命的な出会い
現在の隆未さんは自然派ワインの奥深さに魅了されていますが、20代半ばのサラリーマン時代は、ワインの良さを全く理解していませんでした。しかし、「ワインを楽しめない人生は損だ」という思いから、様々なワインを試飲する中で、大規模生産のワインには物足りなさを感じていました。そんな時、食通の友人に誘われて訪れたのが、自然派ワインバーでした。当初は「意識高い系の人たちが飲むおしゃれなもの」と抵抗を感じたものの、一口飲んでみると、その面白さに気づき、あっという間に自然派ワインの世界にのめり込んでいきました。特に印象的だったのは、軽やかで喉越しが良いボージョレのガメイ。ジャン・フォワヤールとの出会いは、自然派ワインを好きになった原点であり、今でも心に深く刻まれています。
南仏ワインへの新たな開眼
隆未さんのワインに対する意識を変えたもう一つのきっかけは、南仏ローヌ地方アルデッシュの造り手、ル・マゼルのワインでした。それまで冷涼な産地の軽やかなワインを好んでいた隆未さんにとって、南の産地のワインはあまり積極的に選ぶものではありませんでした。しかし、現地で飲んだ「ラルマンド」は、シラー100%とは思えないほどの優しさに満ちており、隆未さん夫妻は一瞬にして南仏ワインの魅力に引き込まれました。造り手と直接会うことで、そのワインへの情熱や人柄に触れ、ワインを深く愛する気持ちはさらに加速します。「この人が造ったワインだからこそ、店で提供したい」という思いは、時に個性的な味わいのワインであっても、愛おしさへと変わっていきます。今後も新しい造り手との出会いを求め、パストンで楽しめるワインのラインナップは、ますます魅力的になることでしょう。
素朴なワインに寄り添う滋味深い料理
隆未さんが語る自然派ワインの魅力は、「味わい」そして「造り手の存在がダイレクトに伝わってくる生き生きとした個性」です。そのこだわりは、パストンで提供されるワインの選択にも反映されており、じっくりと心に沁みわたる、滋味深い味わいのワインが揃っています。そんなワインに寄り添うように、由樹さんが腕を振るう料理もまた、素朴でありながら奥深い味わいです。スペシャリテのパテは、豚の背脂と鶏レバーを惜しみなく使用したクラシックなレシピで、濃厚な旨味が口いっぱいに広がります。ハマグリとグリンピースの蒸し煮は、ペルノーの香りとハーブのニュアンスが絶妙に溶け合い、爽やかで滋味深い香りが食欲をそそります。この料理には、隆未さんが選んだハーバルなソーヴィニヨン・ブランが完璧にマッチし、忘れられない味覚体験を演出します。
深夜2時まで灯る、ワイン好きの止まり木
コロナ禍を経て、深夜まで営業する飲食店が減少する中、パストンは深夜2時まで暖かな灯りをともしています。「飲食店で働く自分たちが、仕事を終えてから気軽に立ち寄ってワインを飲みながら話せる場所があれば」という隆未さんの思いが、この深夜営業のスタイルを生み出しました。オープンから1年、パストンは地域住民や同業者から深く愛され、まるで古くからこの商店街に根付いていたかのように馴染んでいます。それは、趣のある古民家の雰囲気だけでなく、隆未さんが心を込めて注ぐ滋味深いワインの味わいが、多くの人々の心に響いているからかもしれません。銭湯帰りにふらっと立ち寄るような、日常に溶け込む味わい深い空間。パストンには、訪れる人々が良い時間を過ごせるようにと、細やかな配慮が息づいています。