葛西臨海水族園:東京の希少生物保護と展示への新たなアプローチ

生命の息吹、東京の水景が織りなす感動の物語
東京の海の多様性を守る使命
バブル経済の只中、東京の自然が急速に失われゆく中で、葛西臨海水族園は開園しました。当園には、一般的な水族館にいるようなイルカやラッコといった人気のある動物はおりません。しかし、開園当初から「海と人間との対話の場」という理念を掲げ、多摩川から東京湾、さらには伊豆七島、小笠原諸島まで、東京周辺の水域に息づく多種多様な生物たちを紹介しています。当園の展示スペースの約3分の1を占める「東京の海」のコーナーをはじめ、「世界の海」、壮大なクロマグロの群れが泳ぐ巨大水槽、そして国内でも有数の規模を誇るペンギン展示施設など、地球上の約500種もの生物たちとの出会いがあります。現代の東京の水辺からは、開発によって生息地が減少した結果、多くの生物が姿を消しつつあります。教育普及担当(取材当時)の宮崎寧子氏は、「日本全体で見れば絶滅の危機に瀕していなくても、東京では見られなくなっている生物がいます。例えば、カエルは都心部ではほとんど見かけることがありません」と語ります。このような状況下で、葛西臨海水族園は、希少なトウキョウダルマガエルをはじめ、アカハライモリ、小笠原諸島固有の陸産貝類などを飼育し、繁殖に努めています。「希少種の保護の重要性はますます高まっており、水族館の存在意義の一つとなっています。東京都立の動物園・水族園では、ライチョウやツシマヤマネコなど、日本および世界の希少種の保護にも取り組んでいますが、特に力を入れているのは東京の希少種です。数を減らしている生物たちを展示することで、来園者に生物や自然との共生社会を育む役割を果たしたいと考えています」(宮崎氏)。
生命の神秘と生存戦略を解き明かす展示アプローチ
展示においては、生物が生きる環境をできる限り忠実に再現し、来園者が自らの観察を通じて生物たちの生存戦略を発見できるよう工夫が凝らされています。これは、特定の個体に感情移入するのではなく、種としての生物全体への理解を深めてもらいたいという意図からです。展示パネルには、「生き抜くための巧妙な設計」「メスの姿に擬態するオス」といった、大人も子供も興味を引かれるキーワードが並んでいます。「海の生物たちは、環境に適応するための様々な生存戦略を身につけています。それらを観察できるように、環境との相互作用を紹介する展示を行っています。生物の驚くべき能力や面白さを発見し、その奥深い世界を探求してほしいと願っています。人間には到底真似できないことも多いですが、多様性を知ることで、固定観念にとらわれすぎる必要はない、ということを生物から学ぶことができます」と宮崎氏は語ります。おすすめの鑑賞方法として宮崎氏は、「気になった生物を1分ほどじっと観察してみてください。きっと何か新しい発見があるはずです」と提案しています。生物が活発に動き回る朝の時間帯や、どのように餌を食べるかなど、普段見られない珍しい姿を目にすることができるかもしれません。宮崎氏が特に注目してほしいと推す生物の一つが、小笠原諸島に生息する「ヤセタマカエルウオ」です。陸上生活に適応した魚の一種であると、目を輝かせながら説明する彼女の姿は、海の生物への深い愛情が、この水族園の魅力の大きな支えとなっていることを物語っています。