覆面作家・雨穴氏の『変な絵』が英国の文学賞最終候補に:翻訳者ライオン・ジミー氏が語る魅力




人気ユーチューバーとして名を馳せた後、ミステリー作家として成功を収めた雨穴氏の作品が、今や世界中で読まれるまでになった。中でも、彼の著書『変な絵』の英訳版である『Strange Pictures』は、英国推理作家協会が主催する2026年のCWA賞翻訳部門において、見事最終候補の6作品の中に選ばれた。この快挙に際し、翻訳者であるライオン・ジミー氏が、著者との出会いや作品が持つ独特の魅力について詳細を語った。
ジミー氏が雨穴氏の作品と出会ったのは2022年のことで、きっかけは妻がYouTubeチャンネルのファンであったことだ。彼は元々不気味なものや奇妙な物語を好むため、すぐに雨穴氏の長編物語に引き込まれた。特に活字を好むジミー氏は、雨穴氏が二冊の書籍を出版していることを知り、すぐにそれらを手に取った。横溝正史の『悪魔が来りて笛を吹く』の翻訳を終えたばかりだった彼は、雨穴氏のデビュー作『変な家』(2021年)を読んで、日本の古典的な怪奇小説との共通点を感じ取った。この作品には、横溝作品に見られるような退廃的な富、田舎特有の閉鎖感、そして異様な家族の秘密といった要素が色濃く反映されていた。しかし、彼が真に衝撃を受けたのは、その次の作品である『変な絵』(2022年)であった。この作品は、文章が簡潔でありながら、絵を手がかりとして謎を解き明かすという斬新な手法が用いられている。さらに、その根底にある物語の構造は、一見すると単純に見えつつも、実際には極めて複雑に構築されている。また、『変な家』では日本文学の影響が顕著であったのに対し、『変な絵』では西洋的なサイコスリラーの要素を取り入れ、現代社会の倫理観が前面に出ている点も彼の興味を惹きつけた。妻からの「翻訳してみたら?」という提案に、ジミー氏は即座に賛同し、翻訳文学を専門とするプーシキン・ヴァーティゴ社の編集者に雨穴作品を紹介した。そして、2023年末から『変な絵』の英訳作業が本格的に開始され、約一年後に英語版が出版されるに至った。この作品を世界に送り出すことができたのは、関わった全員がその価値を信じていたからに他ならない。
この国際的な評価は、雨穴氏の独特な世界観が国境を越えて人々に受け入れられる証拠である。彼の作品は、単なるミステリーの枠を超え、読者に深い考察と驚きを提供する。文学が持つ可能性と、異なる文化が交差することで生まれる新たな価値を、私たちはこの快挙から学ぶことができるだろう。