醸造家・森大地氏が語るクラフトビールと音楽の融合:フジロックへの挑戦







山登りの後の特別な一杯、特に地元のクラフトビールは、その清涼感と個性で心を豊かにしてくれます。この物語は、そんな魅力的なビールを追求し、独自の哲学で醸造に挑むブルワーの姿を追ったものです。彼がどのようにしてビール造りの道に進み、どんな情熱を注いでいるのか、その深奥を探ります。
埼玉県ときがわ町「Teenage Brewing」:森大地氏の情熱と挑戦
とある日の早朝、午前6時34分発の電車に乗り、筆者は埼玉県比企郡の明覚駅へと向かいました。目的地は、愛宕山登山と、その後に控える「Teenage Brewing」への訪問です。拝島駅での乗り換えの際、登山に向けてエネルギーを補給するため、駅構内の吉野家で牛丼と卵を摂取。完璧な朝食を済ませ、八高線に飛び乗りました。
明覚駅で編集担当の山﨑氏と合流し、いざ愛宕山へ。登山口までの20分間の道のりを経て、本格的な登山がスタートしました。予想以上の急勾配に、太ももには早くも疲労が蓄積し、呼吸も荒くなります。「なぜ人々は山に登るのか」という哲学的な問いが頭をよぎる中、一歩ずつ前へと進みました。何度も挫けそうになりながらも、ついに山頂に到達。わずか10分という短い登山時間でしたが、筆者にとっては大きな達成感でした。山頂からは、先ほど通った民家や畑が見下ろせる、のどかな田園風景が広がり、その景色は短い登山の労苦を忘れさせる美しさでした。
しかし、本当の試練はここからでした。下山後、「Teenage Brewing」までは徒歩で40分という道のりが待ち受けていました。タクシーを懇願するも却下され、畑が広がる田舎道をひたすら歩き続けました。山登りよりも過酷に感じられたその道のりを乗り越え、ついに「Teenage Brewing」に到着。そこで私たちを出迎えてくれたのは、代表の森大地氏でした。
森氏は元々、音楽レーベルやライブハウスの運営に携わり、自身もミュージシャンとして活動していました。40代を迎え、新たな情熱を求めてゼロからビール醸造を始めたのが2023年のことです。彼のビール造りへのこだわりは並々ならぬものがあります。理想の味に到達するまでリリースの延期も厭わず、時にはレシピを一から見直し、再醸造することもあるといいます。森氏はビールを「ライブとCDの中間」と表現します。ビールを飲むという行為はライブのように一瞬の体験ですが、缶に残ることで、その日の思い出や会話を鮮やかに呼び覚ますことができる、と。音楽を創作することとビールを醸造すること、一見異なる分野に見えますが、森氏にとっては「人々を楽しませる」という共通の目標に向かう手段なのでした。
昨年、森氏はアーティストとしてフジロックフェスティバルのステージに立ち、さらにブルワーとして同フェスティバルのオフィシャルビールの醸造も手掛けました。音楽の道の先にフジロックがあり、クラフトビールの道の先にもまたフジロックという到達点があったという事実は、まさにドラマチックな巡り合わせです。「Teenage Brewing」のこれからの飛躍が、いまから非常に楽しみです。
「Teenage Brewing」を後にして、武蔵嵐山で途中下車。気になっていた中華料理店「三宝」で餃子をつまみながら、森氏の物語に思いを馳せました。音楽とビールを通じてフジロックという夢を叶えた森氏。筆者にとっての「フジロック」とは何だろうか、と自問自答しました。その答えは見つかりませんでしたが、目の前の餃子は格別な美味しさでした。人生の道のりの中で、誰もがそれぞれの「フジロック」を見つけ、その達成感に向かって進んでいくのかもしれません。