長野・茅野の「蓼科トライアルパーク」:世界を目指す自転車文化の拠点






自転車文化の未来を創造する情熱:蓼科トライアルパークの挑戦
世界を視野に入れた移住と「自転車王国」構想
長野県茅野市の高原地帯に広がる「蓼科トライアルパーク」は、世界クラスの常設コースとして、数多くのトップライダーを魅了しています。この施設は、競技の枠を超え、幼児向けのランバイクから小学生のMTBレーサー育成、さらには地域全体を巻き込んだ「自転車王国」の創出を目指す一大拠点へと進化を遂げています。2026年9月20日に開催された「2026 Jシリーズトライアル #02 長野大会」の熱気とともに、東京・渋谷から移住した一人の父親の強い決意と、彼らが描く自転車文化の未来に焦点を当てます。
八ヶ岳の麓に広がる、日本最高峰の自転車トライアルフィールド
初秋の澄み切った空気が漂う長野県茅野市豊平。標高約1,000mの高原には、白樺と唐松の木立が広がり、自転車のスキール音と金属のラチェット音が響き渡ります。2026年9月20日、この地で「2026 Jシリーズトライアル #02 長野大会」が開催されました。日本全国から集結したライダーたちは、巨岩、巨大な丸太、コンクリートヒューム管などが複雑に組み合わされたテクニカルな人工セクションに挑みました。国内トップカテゴリーの「ELITE(エリート)」から、未来を担うキッズクラス、そして生涯スポーツとして楽しむマスターズまで、幅広い年代のライダーたちが己のバランス感覚と精神力の限界に挑む姿が見られました。近年、全日本選手権やJシリーズの開催地として確固たる地位を築きつつある蓼科トライアルパークですが、訪れる選手や関係者は皆、口を揃えて「ここは単なるレース会場ではない」と言います。世界への扉を開くための徹底した練習拠点であり、子どもたちが自転車の純粋な楽しさに触れる入口であり、そして地域に新たな自転車文化を根付かせる実験場。その中心となっているのが、東京・渋谷から家族と共にこの地へ移住してきた岩村比呂彦氏の存在です。
世界との隔たりを埋めるための決断:渋谷から蓼科へ、4,500坪の挑戦
蓼科トライアルパークをゼロから築き上げた岩村比呂彦氏は、元々東京・渋谷で生活していました。自転車とは無縁だった都会での生活から一転、長野県への移住を決意させたのは、競技に打ち込む息子たちの存在でした。岩村氏は、「日本では上位に入れるようになったものの、世界選手権や国際大会では10位前後で跳ね返されてしまう。国内でどれだけ練習しても、世界大会のセクションの規模や難易度には太刀打ちできない。それならば、覚悟を決めて、世界レベルで戦える練習環境を自らの手で作ろうと思ったんです」と語ります。世界の高い壁を痛感した岩村氏は、2024年4月、家族と共に長野県茅野市への移住を敢行しました。蓼科を選んだのは、以前から家族で訪れており、その風土や環境に対して「ここなら暮らせる」という確かな手応えを感じていたからです。さらに移住の背景には、父親として、そして現代社会を見つめる一人の大人としての強い危機感もありました。「東京にいた頃、外遊びの機会が極端に減った現代の子どもたちが、転んだ際に咄嗟に手を出すこともできず、顔面から地面にぶつかって大怪我をしてしまう姿を目の当たりにしました。身体の動かし方や危険を察知する感覚が、幼少期から失われているのではないか。その危機感も、自然の中で思い切り身体を動かせる環境を作りたいという思いにつながっています」。開設当初は約2,000坪だったパークは、岩村氏の情熱と重機作業、そして趣旨に賛同する仲間たちの手によって拡張を重ね、現在では約4,500坪という国内屈指の規模を誇るまでになりました。「以前は東京の自宅ガレージから毎回重い練習用パレットを引っ張り出して朝練をしていましたが、ここに来てからはできることの次元がまったく違います」と岩村氏は笑顔を見せます。個人の情熱から始まったプライベートパークは、瞬く間に全国のトライアル関係者の注目を集める聖地へと変貌していきました。