高級魚ホウボウの干物作り、師弟の集大成

伊東の著名な干物専門店「島源商店」で長きにわたり続けられてきた干物作り修行が、ついに最終局面を迎えました。今回のテーマ魚は、古くから珍重されてきた高級魚ホウボウです。その見事な青緑色の胸ビレと鮮やかな紅色を帯びた体躯は、まさに視覚の饗宴。そして、その身に秘められた濃厚な旨味は、多くの食通を唸らせてきました。修行の集大成として、弟子はこれまで学んできた技術の粋を結集し、ホウボウの背開きから始まり、その脂の乗り具合と鮮度を見極めた絶妙な塩加減を施します。師匠である内田清隆氏、そして共に支え合ってきたスタッフの鈴木氏への深い感謝の念を胸に、堂々たるフィナーレを飾る一品が誕生します。
ホウボウは、そのユニークな生態でも知られています。海底を歩き、時には「ブォブォッ」と鳴き声を発することから、その名がつけられたと言われています。食通の間では、その力強い旨味から高級魚として扱われてきましたが、小型のものは比較的安価で手に入ります。産卵期である3月から5月にかけては味が落ちると言われるものの、秋から冬にかけてが旬とされており、一年を通して流通しています。特に夏場には、干物加工を施すことで旨味が凝縮され、気の利いた酒の肴として重宝されます。
ホウボウの調理は、その硬い頭が特徴的です。しかし、この硬い頭を巧みに割ることで得られる達成感は格別です。内田氏の教えである「細長い魚は背開き」の原則に従い、腹の皮を傷つけることなく、背骨に沿って包丁を進めます。これにより、内臓の除去が容易になり、美しい仕上がりが期待できます。内臓を取り除いた後は、真水で丁寧に洗い、血合いや残った内臓をきれいに除去します。
干物作りの要となる塩漬け工程では、「島源商店」独自の塩分濃度8%の塩水を使用します。重要なのは、この濃度を固定し、漬け込み時間を調整することで、魚の種類や大きさ、鮮度に応じた最適な脱水と塩加減を見極めることです。今回の冷凍ホウボウは小さめながら身がしっかりしており、漬け込み時間は18分と決定されました。漬け込み後は真水で軽く洗い、これ以上塩が身に入り込むのを防ぎます。干し台に並べ、表面を軽く撫でることで、見た目にも美しい艶が生まれます。現代の干物は、かつての保存食としての役割だけでなく、旨味を凝縮し、食材としての可能性を広げることを主眼としています。そのため、塩加減は甘めでも良く、物足りなければ食卓で塩を足すことができます。
焼き上がったホウボウの干物は、そのまま食べるだけでなく、様々な料理にも活用できます。カメラマンの牧田氏は、その上品な味わいから「キュウリの酢漬けと合わせたらどうか、ホワイトビネガーも合うだろう」と具体的なアイデアを提案しました。また、編集者の藤岡氏は、ホウボウ特有の香りに着目し、「タデ酢と日本酒との相性を試したい」と語りました。この干物作りを通して、参加者たちは魚を捌く技術だけでなく、食に対する新たな視点と創造性を育んでいきました。
この2年半にわたる干物作りの連載は、多くの学びと成長の機会をもたらしました。特にスタッフの鈴木氏の成長は目覚ましく、当初は人見知りだった彼が、今では自信を持って指導にあたるようになりました。内田氏も彼の成長を温かく見守り、指導役を完全にバトンタッチするほど信頼を寄せています。島源商店の干物は、この師弟の絆によって、今後も安定した美味しさを提供し続けることでしょう。この地で培われた技術と情熱は、次世代へと受け継がれていくことでしょう。