ドラマ聖地巡礼が変革する富裕層旅行:経済効果と課題

人気テレビドラマの舞台を巡る「聖地巡礼」が、近年、富裕層の旅行市場に大きな変化をもたらしています。単なるファン活動に留まらず、観光業界全体に大きな経済効果を生み出す一方で、観光地の持続可能性や地域住民への影響といった課題も浮上しています。この現象は、エンターテイメント作品の力が観光産業を再定義する可能性を示唆しています。
特に、米国の人気ドラマ「ホワイト・ロータス/諸事情だらけのリゾートホテル」シリーズは、このトレンドを象徴する存在です。マウイ島、シチリア島、タイのサムイ島など、美しいリゾート地を舞台にしたこのドラマは、富裕層の悲喜こもごもを描き、そのロケ地への関心を飛躍的に高めました。高級旅行代理店「Fora」のアドバイザーであるジェシカ・エクナイアン氏によれば、顧客との会話で「ホワイト・ロータス」が話題に上ることは日常茶飯事であり、実際に7万5000ドル(約1200万円)をかけたタイのホテル巡りツアーを企画した事例もあります。
この「セットジェッティング(Set-jetting)」と呼ばれる現象は、観光業界にとって「宝くじ」のような存在となりつつあります。モンタナ大学の報告によると、ドラマ「イエローストーン」の影響で、2021年にはモンタナ州に210万人以上の観光客が訪れ、7億3000万ドル(約1190億円)を超える経済効果がもたらされました。また、タイ国際貿易振興局のデータでは、「ホワイト・ロータス」がサムイ島を舞台にして以降、同国への観光客数が300%も増加し、4倍になったと報告されています。
しかし、この新たな観光トレンドには、負の側面も存在します。オーバーツーリズムによる混雑や環境負荷、そして便乗値上げといった問題が指摘されています。かつて「ゲーム・オブ・スローンズ」のロケ地となったクロアチアのドゥブロヴニクでは、一部の宿泊施設がドラマとの関連性を意図的に避けるほどです。旅行専門のPR会社を設立したジュールズ・ペローン氏は、SNSの爆発的な普及がこの現象を加速させていると指摘し、「旅先そのものを破壊している」という厳しい見解を示しています。
一方で、Pelorus Travelの共同創業者ジミー・キャロル氏は、「セットジェッティング」が人々の心を引きつけるのは、物語を傍観するだけでなく、自らがその物語の一部になったかのような想像力を掻き立てられるからだと分析しています。同社は、エミー賞受賞リアリティ番組「The Traitors」をテーマにした3泊の冒険ツアーを、12人参加で15万7500ドル(約2570万円)という高額で企画しました。
こうした状況は、映画やドラマのロケ地が、単なる撮影場所から、新たな観光資源へと進化していることを示しています。経済的な恩恵は大きいものの、持続可能な観光開発と地域社会との共存を考慮した慎重なアプローチが、このブームを健全に維持するために不可欠であると言えるでしょう。