この度、筆者は山口県が主催するプレスツアーに参加し、これまで足を踏み入れたことのなかったこの地の深遠な魅力に触れる機会を得ました。わずか1泊2日の日程でしたが、山口県が持つ豊かな自然、歴史、そして独自の文化は、私の予想をはるかに超えるものでした。特に、フグで知られる美食の地というだけでなく、教科書で学んだ秋芳洞や、作家・宇野千代ゆかりの地など、多岐にわたる見どころが凝縮されており、訪れる人々を飽きさせない奥深さがあります。この旅は、山口県が「万福の旅 おいでませふくの国、山口」というキャッチコピーを掲げる「山口デスティネーションキャンペーン」を控える中で行われ、その魅力の一端を存分に体験することができました。このレポートでは、そんな山口県の知られざる魅力を余すことなくご紹介します。
ツアーは、本州の西端に位置する長門国エリアから幕を開けました。最初に訪れたのは、数々の映像作品に登場する「角島大橋」です。コバルトブルーの海を貫くように伸びる全長1780mのこの橋は、2000年の開通以来、その息をのむような景観でたちまち山口県の象徴的な観光地となりました。橋のデザインは周囲の自然景観に溶け込むよう計算されており、橋脚の高さを抑え、あえて橋自体が目立たないように工夫されています。また、途中に見られる緩やかなカーブは、小さな島を迂回するためのものであり、自然保護への配慮がこの美しい景観を生み出しているのです。
角島へと渡った後には、地元の名物料理「瓦そば」を体験しました。熱々の瓦に盛られた茶そばは、錦糸卵や牛肉、レモンなどが彩り豊かに配され、その斬新な見た目に驚かされます。下関市が発祥とされるこの郷土料理は、家庭でも親しまれるソウルフードです。独特のコシを持つ茶そばと、瓦に触れた部分が香ばしく焼き上がったおこげの食感のハーモニーは、温かい特製つゆと相まって、まさに絶妙な味わいでした。その製法には、乾麺を茹でた後に冷水で締め、さらに冷蔵庫で一日寝かせるという手間がかけられており、地元で長年愛され続ける理由を実感しました。
次に訪れたのは、インターネットやSNSで話題の「元乃隅神社」です。CNNによって「日本の最も美しい場所31選」にも選出されたこの神社は、世界中から観光客が訪れる人気スポットとなっています。海に面した断崖絶壁に沿って、朱色の鳥居が123本も連なる光景は、まさに圧巻の一言です。鳥居のトンネルを抜けた先に広がるダイナミックな海岸線は、写真では伝えきれないほどの迫力があり、訪れる人々を魅了します。
山口県を代表するもう一つの見どころが、「秋吉台」と「秋芳洞」です。訪れるまで、両者が地下で繋がっているとは想像もしていませんでしたが、実際に目にするとその壮大なスケールに圧倒されます。地上に広がる日本最大級のカルスト台地、秋吉台は、緑の草原に白い石灰岩が点在する牧歌的な風景が特徴です。今年4月には「Mine秋吉台ジオパーク」がユネスコ世界ジオパークに認定され、その価値が改めて世界に認められました。展望台近くのカフェ「Karstar」からは、この大パノラマを一望でき、贅沢な時間を過ごせます。また、「Karst Gate」では、Eバイクやトゥクトゥクのレンタル、秋芳洞の未公開エリアを巡るケイビングツアーの予約も可能で、アクティブな体験を求める旅行者には最適です。
そして、秋吉台の真下に広がる日本屈指の大鍾乳洞「秋芳洞」へ。一般的な順路とは異なるルートを辿ることで、より深くその神秘に触れることができました。地表のカルスト台地と地下の鍾乳洞は、約3億5000万年前に形成された巨大な石灰岩層が、雨水によって浸食されてできた空洞であることを知り、地球の壮大な歴史とロマンを感じずにはいられません。ライトアップされた洞内のダイナミックな景観は、訪れる人々を深い感動で包み込みます。
初日の夜は、「源泉の宿 萩本陣」で過ごしました。城下町・萩にふさわしい趣のある純和風旅館で、地下2000mから湧き出る自家源泉の温泉が自慢です。「湯の丸」と呼ばれる大浴場は、まるで小さな温泉街のよう。中庭を囲む回廊には、土塀露天風呂や水流の間など、趣向を凝らした14種類もの湯船が並び、朝晩で男女入れ替えが行われるため、様々な温泉を楽しむことができます。夕食は、料理長が腕を振るう「極み海鮮雲丹しゃぶ会席」を堪能しました。濃厚なウニスープに旬の海の幸をくぐらせ、仕上げに新鮮な板雲丹をたっぷりのせて味わうこの料理は、ウニの甘みと出汁の旨みが口の中でとろけ合い、まさに至福のひとときでした。
2日目は、萩市にある「東光寺」の参拝から始まりました。1691年に毛利吉就によって建立されたこの黄檗宗の禅寺は、歴代藩主が眠る菩提寺です。本堂裏手には、約500基もの石灯籠が左右対称に並ぶ毛利家墓所があり、毎年8月15日の「万灯会」では、すべての灯籠に火が灯され幻想的な世界が広がるといいます。歴史愛好家には特におすすめの場所で、秋にはイチョウや紅葉が境内を美しく彩ります。続いて訪れたのは、萩市を代表する歴史文化スポット「松陰神社」。ここでは、地元の人々が吉田松陰を「松陰先生」または「松陰大士」と敬称をつけて呼ぶという、深い敬意に触れました。境内にある「松下村塾」は、わずか8畳ほどの小さな平屋ですが、高杉晋作や伊藤博文など、幕末・明治の主要人物がここから輩出されたと考えると、胸が熱くなります。29歳の若さで刑死した松陰先生が、激動の時代を動かすリーダーたちを育て上げたという事実に、改めてその偉大さを感じました。地元の小学校では、朝礼で松陰先生の言葉を朗読し、卒業までに18個の言葉を暗唱する習慣があるそうで、郷土の偉人を誇りに思う教育が根付いていることに感銘を受けました。
萩を後にして、車で約1時間の場所にある山口市「香山公園」へ向かいました。園内にある「洞春寺」は、戦国時代の名将・毛利元就の菩提寺として知られる臨済宗の禅寺で、室町時代に建てられた山門は国の重要文化財に指定されています。厳かな境内の奥には、ユニークな「令和の大仏(コロナ大仏)」が設置されており、歴史ある古刹との意外な組み合わせが国内外からの多くの参拝客を惹きつけています。同じ敷地内を散策すると、国宝「瑠璃光寺五重塔」が見えてきます。日本三名塔の一つに数えられるこの五重塔は、令和の大改修が完了したばかりで、まさに今が最も美しい時期です。約70年ぶりに檜皮の全面葺き替えが行われ、その雄姿は圧巻。山口DC期間中には、通常非公開の内部が特別公開される予定です。ランチは、瑠璃光寺五重塔近くの「長州苑」で、山口県ならではの贅沢な「ふぐのタタキ」を堪能しました。また、1階のカフェでテイクアウトした「飲む外郎」は、米粉ではなくわらび粉を使った山口独特の外郎をドリンクにしたもので、独特の粘り気と上品な甘みが特徴的でした。
旅のクライマックスは、宇野千代ゆかりの地、岩国市へ。まずは、美しい木造橋「錦帯橋」を訪れました。今回は、この橋を伝統的な手作業で守り続ける「橋守」による特別なガイドツアーに参加。木組みの技法や、約20年ごとに行われる架替工事の歴史、そして観光客の足で削れてしまう階段の先端を修繕する「段鼻修繕工事」など、貴重な裏話に耳を傾けました。錦帯橋の余韻に浸りながら、周辺の城下町を散策。「岩国学校教育資料館」では、宇野千代の卒業写真や愛用品、原稿などが展示されており、彼女の足跡を辿ることができます。街中には、千代の前向きな言葉が刻まれた看板「幸福の言葉」が18か所に設置されており、宝探しのように見つけながら歩く散策は、心に温かいメッセージを届けてくれます。旅の最後に訪れた「宇野千代生家」は、彼女が幼少期を過ごした場所。執筆に使っていた文机や愛用していた着物が展示され、大作家の美意識とライフスタイルを感じられる空間は、連続テレビ小説「ブラッサム」の放送開始後には、多くのファンで賑わう聖地となることでしょう。
今回のプレスツアーで巡った山口県の多彩な魅力は、訪れる人々に深い感動と発見をもたらします。交通手段として、山口デスティネーションキャンペーンに合わせて登場した「山口ふくの国周遊パス」は、JR在来線や指定バスが3日間乗り放題になるだけでなく、秋芳洞の入洞料や錦帯橋の渡橋券が無料になるなど、非常にお得です。フグの「ふく」と幸福の「福」が掛けられたこの地は、まさに「万福の国」。この秋、連続テレビ小説「ブラッサム」の放送も始まり、さらに注目が高まることでしょう。ぜひ、この機会に山口県を訪れ、数多くの「福」との出会いを体験してみてはいかがでしょうか。