直島新美術館にタイ人アーティストによる瞑想を誘う新作登場

香川県直島のベネッセアートサイト直島に位置する直島新美術館は、現代アートの新たな魅力を発信する拠点として、この度、タイ人アーティスト、サニタス・プラディッタスニーによる画期的な新作《The Sound of Naoshima》を発表しました。この作品は、来館者に視覚だけでなく、心の内側に響く「音なき音」を感じさせることを目的とし、美術館体験に深遠な瞑想的な側面を加えています。
直島新美術館は、開館以来、アジア各地の著名なアーティストから新進気鋭の作家まで、幅広い作品を紹介してきました。今回の展示替えでは、岡﨑乾二郎氏とサニタス・プラディッタスニー氏の新作が導入され、さらに下道基行氏による瀬戸内「緑川洋一」資料館のサテライト展示も同時に公開されています。これらの取り組みは、美術館がその物理的な空間に留まらず、周囲の環境や地域文化と融合する「サイトスペシフィック」なアプローチを重視している現代美術の傾向を色濃く反映しています。直島がこれまで培ってきたアート活動の精神にも合致し、その魅力を一層高めるものとなっています。
特に注目されるのは、サニタス・プラディッタスニー氏の《The Sound of Naoshima》です。この作品は、禅の公案「隻手の声」からインスピレーションを受けています。「片手で鳴らす音を心耳で聞く」というこの公案は、理屈や思考を超えて、存在の本質、すなわち「音なき音」を感じ取ることを促します。プラディッタスニー氏は、2024年7月に初めて直島を訪れ、島の聖なる森や神社、そして遍路道を巡る中で、故郷タイの森での瞑想体験を想起し、仏教思想の「無常」「苦」といった概念を再認識したと語っています。
作品は、美術館へと続く階段の脇に広がる手つかずの自然の中に設置されています。訪れる人々は、美術館内部へ入る前にこの作品に出会い、足取りを緩め、立ち止まり、自然の息吹を感じ、移ろいゆく風景の中で自身の内面と静かに向き合う時間を過ごすことができます。これは、単なる鑑賞を超え、自己省察へと誘う「アプローチ」として設計されています。
1980年バンコク生まれのサニタス・プラディッタスニー氏は、現代アート制作に加え、ランドスケープ・アーキテクチャー・デザインも手掛ける多才なアーティストです。彼女は、信仰や宗教建築に見られる形態、質感、そして「空虚な空間」に深い関心を抱き、鑑賞者との相互作用を促すような建築的・彫刻的な作品を創造してきました。今回の直島での制作にあたり、彼女はタイ伝統の鏡、漆、古代からの鋳造技法を直島の自然に融合させることを強く望み、入念な調査と研究を通じて、伝統素材を用いた鏡の復元を実現しました。
直島新美術館におけるサニタス・プラディッタスニー氏の新作は、来館者に五感を研ぎ澄まし、精神的な深淵に触れる機会を提供します。このインスタレーションは、単なる美術作品としてだけでなく、現代社会における瞑想と内省の場としての美術館の可能性を提示しており、直島の自然と文化が織りなす新たなアート体験の創造に貢献しています。