福岡「珈琲美美」:亡きマスターの遺志を継ぐ一杯

近年、街中では自家焙煎を謳う喫茶店が数多く見受けられます。店内に一歩足を踏み入れれば、焙煎された豆の芳しい香りが広がり、店主が丁寧に淹れる一杯のコーヒーを、愛好家たちがそれぞれの場所でゆっくりと味わう光景が広がっています。本稿では、厳選された生豆を仕入れ、独自の製法で自家焙煎を行うコーヒー専門店に焦点を当て、その魅力に迫ります。これらの店舗では、焙煎豆の販売も行っており、オンラインストアを通じて自宅でその味を楽しむことも可能です。格別なコーヒー体験を求めて、新たな喫茶店を巡る旅に出かけましょう。
福岡市赤坂に佇む「珈琲美美」は、コーヒー愛好家の間で広く知られる名店です。1977年に久留米市出身の森光宗男氏によって創業されました。森光氏はイエメンやエチオピアなどの産地を度々訪れ、コーヒーの起源を探求し、その研究成果を著書にまとめています。しかし、2016年に森光氏が急逝した後、妻の森光充子氏がその遺志を継ぎ、店の暖簾を守り続けています。充子氏は「マスターが築き上げた味を守り続けること」を胸に、日々コーヒーを提供していると語ります。その「マスターの味」とは、苦味を基調としながらも、冷めても風味が損なわれないという特徴を持つコーヒーです。この「冷めても美味しい」という特徴は、独自の焙煎技術によって生み出されます。夫婦で店を切り盛りする中で、充子氏はネルドリップの技術を習得し、2012年からは焙煎作業にも携わるようになりました。森光氏の仕事ぶりを間近で見て「なんとなく覚えた」と謙遜する充子氏ですが、その手によって「珈琲美美」の伝統の味はしっかりと受け継がれています。エチオピアやイエメン産を主としたモカを中心に、約14種類の豆を取り揃え、一度に4kgの豆を焙煎します。焙煎前日には、豆を50℃の湯で洗い、手で揉み込んだ後、新聞紙に包んで一晩寝かせます。この工程により、豆の酵素が活性化し、アクや酸化物が取り除かれ、クリアな味わいが生まれると言います。特に、エチオピア産の「ヤンニハラール・モカ」を主軸とした「中味ブレンド」は、深い苦味の中に豊かなコクとすっきりとした後味が広がり、その芳醇な香りは格別です。確かに冷めても美味しく、コーヒーの風味は濁りません。現在では、開店前から客が列をなすほどの人気店となりましたが、この素晴らしいコーヒーを味わうためなら、多少の待ち時間も苦になりません。そう思わせるほどの魅力が、「珈琲美美」にはあります。
「珈琲美美」は、単なる喫茶店ではなく、コーヒーへの深い愛情と情熱が込められた場所です。亡きマスターの技術と哲学を妻が受け継ぎ、進化させながらも、その本質を守り続けています。一杯のコーヒーを通じて、人生の奥深さや、世代を超えて受け継がれる「本物」の価値を伝えていると言えるでしょう。私たちが日々の中で見過ごしがちな、こだわりや探求心、そして人との繋がりが、この小さな店には息づいています。この「珈琲美美」が提供するコーヒーは、私たちに日々の喧騒から離れ、心豊かなひとときを過ごす機会を与えてくれます。