美術家・山西ももの「光を鋳造する」挑戦:山との出会い、鋳金、そして写真作品へ







山が育む感性、光を捉える芸術
山との出会い:幼少期の記憶と自然への回帰
大阪で育った山西ももにとって、山は小学校2年生の時に父と登った木曽駒ヶ岳が初めての出会いでした。舗装されていない道、湧き水、そして稜線の強風。都会では体験できない自然の壮大さに衝撃を受け、「これが地球か!」と深く感動しました。その後も父と北岳に登るなど、山での自由な感覚と、厳しいながらも忘れられない思い出が彼女の心に刻まれました。中学以降は部活動で忙しくなり山から遠ざかりましたが、東京藝術大学で工芸科鋳金専攻に入学し、山岳部に所属したことをきっかけに、再び山へと足を運び始めました。モンベルでのアルバイト経験も加わり、国内外の様々な山を巡るようになります。
山歩きがもたらす心の変化と創造の源泉
山西ももは、普段の思考が散漫になりがちな性格だと語ります。しかし、山を歩くことで余計なものがそぎ落とされ、思考が整理され、物事の本質が見えてくる感覚が、山に惹かれる大きな理由だと言います。歩き、食べ、寝るというシンプルな行為の中に、心の平穏と深い洞察を見出すのです。写真を始めたきっかけもまた山でした。唐松岳で山岳収集家の鈴木優香と出会い、彼女の影響でフィルムカメラを手に取るようになりました。こうして、山、鋳金、写真という3つの要素が、彼女の芸術活動において重要な意味を持つようになります。
「光の鋳造」:ムスタン王国の光を捉える
2025年に発表予定の写真集『光の王国』は、ネパール領内の旧自治王国であるムスタンを舞台に制作されました。ヒマラヤ山脈の奥深くにあるこの地で、山西ももは現地のダンボールなどを使って手作りのピンホールカメラを制作。レンズを使わず、針穴から光を集めて像を映し出すピンホールカメラで、風景、人物、動物などを撮影しました。彼女はこれを「光の鋳造」と表現し、鋳金技術を学んだ経験から生まれた、土地の光を定着させるという独自のテーマを追求しています。彼女の作品には、被写体と淡い光が溶け合うような美しさがあり、まるで夢の中をさまよっているかのような、あるいは土地の記憶を覗き込んでいるかのような独特の空気感を醸し出しています。
創作への情熱と世界観の変革
大学の卒業制作では、「自分の情熱の源は登山にある」という思いから、山での経験を作品に昇華させることを決意。アラスカの広大な大地をテントを担いで歩き、野生のヘラジカを観察し、その姿をオブジェとして制作し、写真とともに発表しました。写真家の石川直樹、石川竜一、野口里佳のワークショップに参加したことも、彼女の芸術観に大きな影響を与えました。特に「一枚の写真が世界の価値観を覆すことがある」という考え方に感銘を受け、生活を豊かにする工芸品よりも、実用性はなくとも世界の価値観を変換できるような作品を創造したいという強い願望を抱くようになったのです。