長崎の伝統銘菓:五島列島のチャンココ餅と中国伝来のよりより

長崎県は、その豊かな歴史と異文化交流の背景から、数多くの独特な銘菓を生み出してきました。この記事では、五島列島に伝わる伝統的な念仏踊り「チャンココ」にちなんだ「治安孝行」という求肥菓子と、中国由来の揚げ菓子で長崎の日常に深く根付いている「よりより」という二つの代表的なお菓子を取り上げ、その製法、歴史的背景、そして地域社会における特別な位置づけを探ります。これらのお菓子は単なる食べ物ではなく、長崎の文化と人々の暮らしを象徴する存在です。
五島列島福江島で大正元年に創業した「はたなか」は、菓子製造だけでなく観光事業も手掛ける老舗です。彼らが60年以上にわたり大切に守り続けてきたのが、五島を代表する「治安孝行(ちゃんここ)」です。この菓子の名前は、約800年前に島に伝わった念仏踊り「チャンココ」に由来しており、カネの音「チャン」と太鼓の音「ココ」がその語源とされています。この念仏踊りは、先祖の霊を鎮め、家庭の安全を願う五島の夏の風物詩で、お盆の時期には花傘を被り、腰蓑をつけた踊り子たちが太鼓を叩きながら踊る姿が島のあちこちで見られます。「治安孝行」は、この踊り手が首から提げる太鼓を模した俵型をしており、きな粉をたっぷりとまぶしたもちもちの求肥の中に、職人が丹精込めて練り上げたあんこがぎっしり詰まっています。かつて天皇陛下に献上された実績もあり、全国菓子博覧会では名誉総裁賞を受賞するなど、五島が誇る傑作と評されています。島外ではなかなか手に入らない貴重な逸品であり、その希少性がさらに魅力を高めています。
一方、日本三大中華街の一つがある長崎で古くから親しまれている「よりより」は、中国起源の揚げ菓子です。「麻花兒(マファール)」や「唐人巻」といった別名もありますが、地元では二本の生地をねじり合わせて作られることから「よりより」として定着しました。長崎では学校給食にも登場するほど身近な存在で、県民のソウルフードと言えるでしょう。特に中華街で70年以上の歴史を持つ老舗「福建」のよりよりは、その製法に特徴があります。中国伝統の饅頭作りに用いられる自然発酵させた熟成生地「老麺(ろうめん)」を使用し、職人が一本ずつ手で編み、大豆油で揚げることで小麦本来の豊かな風味を引き出しています。最大の魅力はその独特の硬さで、一口食べると「歯ごたえ」があり、優しい甘さが後を引くクセになる味わいです。商品の硬さも様々で、好みに合わせて選ぶ楽しみもあります。異国の文化が長崎の街に溶け込み、日常のおやつとして根付いた「よりより」は、長崎の多様な歴史を物語る一品です。
これらの菓子は、単なる食の楽しみを超え、長崎の風土、歴史、そして人々の暮らしに深く根差した文化的な意義を持っています。五島の「治安孝行」が地域の伝統行事と結びついているように、「よりより」は長崎の国際的な歴史を反映しています。これらのお菓子を味わうことは、長崎の豊かな文化遺産を体験することに他なりません。