長年にわたり、食の世界でその名を馳せた山本豊氏。彼が築き上げた洗練された中華料理の数々は、多くの食通を唸らせてきました。今回、彼が惜しみなく披露する「野菜の高菜炒め」は、単なる一品料理に留まらず、中国料理の奥深さと、素材の持ち味を最大限に引き出す知恵が凝縮されています。特に夏場に旬を迎える野菜と高菜漬けの組み合わせは、食欲をそそるだけでなく、発酵食品の持つ優しい酸味と旨味が、後味を爽やかにし、夏バテ気味の体にも活力を与えてくれるでしょう。山本氏の哲学が息づくこの一皿は、家庭の食卓に新たな彩りをもたらし、日々の食事をより豊かなものに変えてくれるはずです。彼の長年の経験と技術が詰まったこのレシピは、まさに食文化の継承であり、多くの人々にとって価値ある贈り物となるでしょう。
伝説の料理人が伝授する「野菜の高菜炒め」の極意
約35年前、料理専門誌「dancyu」の創刊当初から、編集部が厚い信頼を寄せていた伝説の料理人がいました。それが、かつて吉祥寺に店を構え、多くのファンを魅了した中国料理店「知味 竹爐山房」の元店主、山本豊氏です。中国各地の料理に精通し、その確かな技術に裏打ちされた上品で洗練された味わいは、多くの人々を虜にしました。今回、引退された山本氏が、彼が長年培ってきた膨大なレシピの中から、特に夏に食したいと人気を集めた一品「野菜の高菜炒め」(中国語名:鹹菜露笋、シエンツァイロウスン)の作り方を特別に公開してくださいました。このレシピは、漬物の酸味が料理に深い風味を与え、一般的な野菜炒めとは一線を画す、奥深い味わいを生み出します。
山本氏が今回披露してくださった「野菜の高菜炒め」は、中国料理における漬物活用の妙技を教えてくれるものです。彼は「中国では炒め物に漬物を頻繁に使います。塩味や酸味がそのまま調味料の役割を果たすんですよ」と語ります。この一品は、初夏を彩るメニューとして特に人気が高く、旬のグリーンアスパラガスの鮮やかなみずみずしさと、高菜漬けが持つ独特の旨味が絶妙に調和しています。発酵食品ならではの柔らかな酸味が、後味をすっきりとさせ、食欲をそそります。アスパラガスの代わりにチンゲン菜、セロリ、ゴーヤー、オクラ、椎茸など、お好みの野菜でアレンジが可能です。材料は、グリーンアスパラガス150g(太めのもの)、高菜漬け100g、スライス豚バラ肉50g、長ねぎ6cm分(小口切り)、生姜1/2片分(1cm角の薄切り)、水溶き片栗粉小さじ1(水と片栗粉2:1)、胡麻油小さじ1、サラダ油適量、紹興酒大さじ1、醤油小さじ1、鶏スープ大さじ1(鶏ガラスープの素でも可)です。作り方は、まず高菜漬けを塩抜きし、1cm角に切ります。アスパラガスは根元の硬い部分をピーラーでむき、8cm程度の長さに揃え、豚バラ肉は1cm幅に刻みます。次に、150℃程度のサラダ油でアスパラガスを素早く揚げ(油通し)、油慣らしした中華鍋にサラダ油大さじ1を熱し、豚バラ肉、長ねぎ、生姜、高菜漬けを順に炒めます。最後にアスパラガスを加え、調味料で味を調え、水溶き片栗粉でとろみをつけ、胡麻油で香りを加えれば完成です。この繊細な調理法が、素材の旨味を最大限に引き出し、食卓に格別の味わいをもたらします。
山本豊氏の料理哲学と「知味 竹爐山房」の軌跡
1949年に高知県で生を受けた山本豊氏は、1968年に中国料理研究部の門を叩き、料理の世界へとその道を歩み始めました。彼のキャリアは、1976年から中国料理研究部の先輩である故小笹六郎氏が主宰する「知味斎」での勤務から本格的にスタートします。そして1987年、東京の吉祥寺に自身の名を冠した「知味 竹爐山房」を開業しました。この店は、旬の食材をふんだんに取り入れた月替わりのコース料理を提供し、当時の中国料理界に新たな風を吹き込む存在となりました。山本氏の料理は、伝統的な中国料理の枠にとらわれず、日本の豊かな四季の恵みを巧みに取り入れ、常に進化し続ける姿勢が評価されました。「知味 竹爐山房」は2019年に惜しまれつつ閉店しましたが、彼の料理哲学と技術は、後進の料理人たちに多大な影響を与え続けています。彼の著書である『鮮 中国料理味づくりのコツ たまには花椒塩を添えて』をはじめ、『野菜の中国料理』や『乾貨の中国料理』(いずれも柴田書店刊)といった共著は、中国料理を志す者にとって、まさに必読の書として現在も重宝されています。
山本豊氏の料理人生は、常に探求と革新の連続でした。彼が「知味 竹爐山房」で提供した月替わりのコース料理は、単に季節の食材を使うだけでなく、それぞれの素材が持つ最良の風味を引き出すための深い洞察と、卓越した技術が凝縮されていました。彼の料理は、視覚的な美しさ、香りの豊かさ、そして口にした瞬間の奥深い味わいといった、五感を刺激する芸術作品のようでした。特に、中国全土の多種多様な料理法を熟知しながらも、それを日本人の味覚に合うように昇華させるセンスは、彼ならではのものでした。彼の著書群は、単なるレシピ集ではなく、料理に対する哲学、食材への敬意、そして食文化への深い愛情が随所に散りばめられています。これらの書籍は、中国料理の基礎を学ぶ者だけでなく、プロの料理人にとっても、新たな発想や技術のヒントを与え、その後の料理人生に大きな影響を与えています。「知味 竹爐山房」が閉店した今もなお、山本氏の料理に対する情熱と、彼が生み出した数々の革新的なレシピは、多くの人々の心に深く刻まれ、日本の中国料理界における彼の功績は、決して色褪せることはありません。彼の残した足跡は、日本の食文化において貴重な財産であり、これからも長く語り継がれていくことでしょう。