心の状態を「シフト」する科学的アプローチ:ネガティブ感情との健全な向き合い方

心の「ムード・シフト」で、感情の波を乗りこなす
感情の舵取り:ネガティブ感情への新たな視点
人間が内面に抱える感情の中で、不安や怒り、悲しみといったネガティブなものは特に厄介な存在です。古くから人々はこれらの感情と向き合うために様々な方法を模索してきましたが、現代においても、数億人もの人々が不安や抑うつに苦しみ、それが経済的損失にも繋がっています。このような状況に対し、ミシガン大学心理学部のイーサン・クロス教授は、感情を「ある状態から別の状態へ優雅に移行(シフト)させる」という新しいアプローチを提案しています。
ポジティブ思考の落とし穴とネガティブ感情の価値
感情をコントロールする方法として一般的に考えられるポジティブ思考ですが、クロス教授は、状況によってはそれが逆効果になることもあると指摘します。例えば、パートナーの不貞や劣悪な職場環境といった問題に直面した際、無理にポジティブになろうとすることは、かえって苦しみを長引かせることがあります。このような場合には、関係を清算したり、職場を離れるといった具体的な行動が問題解決に繋がることもあります。教授は、ネガティブな感情も「適度に経験される限り、私たちの人生に不可欠なもの」であり、「進化と経験によって培われた力強い知恵」であると語り、目標達成の一助にもなると説明しています。後悔の念は同じ過ちを繰り返さないように促し、怒りは脅威への対処に役立つなど、ネガティブな感情にはそれぞれに意味があります。そのため、感情が湧き上がってきた際には、まずはそれを尊重し、健全な方法で向き合うことが大切なのです。
五感を活用した感情の切り替え術
クロス教授が感情をシフトさせるための具体的な方法として最初に挙げるのが、感覚的な経験の活用です。例えば、教授の研究室の学生の一人は、パン作りを通してストレスや悪感情を制御しています。パン生地をこねる感触、立ち上る香り、そして焼き上がったパンの味といった「瞑想的な行為」が、彼の感情の「シフター」となっているのです。クロス教授自身にとっては、カーラジオから流れてくる音楽がその役割を果たします。ロックバンド「ジャーニー」の代表曲「Don't Stop Believin'」を聞くだけで、不機嫌な気分が解消された経験を共有しています。また、チョコレートピーナッツバターカップを食べることも、彼にとってのもう一つのシフターだそうですが、健康リスクを考慮し、この方法はあまり頻繁には用いないと言います。感覚的な経験によるシフトは、手軽で即効性があるという利点がある一方で、その内容によっては新たな問題を引き起こす可能性もあるため、注意が必要です。