トレイルランニングの長距離レースに挑戦する際、適切な装備選びは非常に重要です。本稿では、YAMA HACK編集部員が70kmを超える過酷なレースに挑んだ経験を基に、その際に準備し実際に使用した装備について詳しく解説します。各アイテムの選定ポイントから実用性までを網羅し、これからトレイルランニングレースに挑戦する皆様に役立つ情報を提供します。70km超えレースを完走するための必須装備とは
トレイルランニング大会に必要な装備の全貌
初めてトレイルランニング大会に参加する際、ロードレースとは異なり、多岐にわたる準備が必要となります。「どんなシューズを選ぶべきか?」「ザックの容量はどのくらい必要か?」「適切なウェアは何か?」「補給食の量は?」といった疑問に答えるため、この記事ではYAMA HACK編集部の青木氏が、77kmの上州武尊山スカイビュートレイル参戦に向けて実際に準備した装備を詳しく紹介します。
青木氏は、10年以上のトレイルランニング経験を持ち、過去には「Mt.FUJI 100」や「信越五岳トレイルランニングレース」といったロングレースを完走しています。育児で一時的にブランクがありましたが、今回のレースを機に装備を再評価しました。
上州武尊山スカイビュートレイルは、標高2,000m級の山岳地帯を通過する高難度のレースです。天候の急変、低温、夜間行動など、あらゆる状況を想定した装備が必須となります。アルパインブランド「ミレー」のサポートを受け、レースに必要なアイテムを厳選しました。本稿では、各アイテムの「なぜそれが必要なのか」「どのように選ぶべきか」を解説しながら、具体的な製品を紹介していきます。
走りやすさだけではない、トレイルランニング装備の多角的役割
市街地を走るマラソンとは異なり、山岳地帯で行われるトレイルランニングでは、単に「速く走る」ことだけでなく、「不測の事態に自力で安全を確保する」という側面が装備選びの非常に重要な要素となります。特に上州武尊山スカイビュートレイルのような過酷な環境では、装備を持っているだけでなく、それを「実際に活用できる状態」であることが求められます。山岳コースの特性を理解し、標高差や天候の急変に対応できる高性能な装備を選ぶことが、安全な完走に繋がります。
レースに備える:装備選びとポイント解説
本セクションでは、レース出場のために準備した具体的な装備品とその選び方のポイントを詳細に解説します。ザックからシューズ、ポール、GPSウォッチ、そして細かな小物まで、それぞれのアイテムがレースで果たす役割と、選ぶ際の注意点を紹介します。
ザックの選び方:揺れを抑え、素早く取り出せる機能性
ミレーからのアドバイスによると、レインウェア、保温着、応急処置キット、食料などを考慮すると、10L以上の容量が推奨されます。ストレッチ素材のザックは、荷物の量に合わせて柔軟に対応できるため、パッキングが容易です。さらに、ショルダーポケットの利便性も重要です。水、補給食、スマートフォンなど、頻繁に使用するアイテムを収納できるポケットがあれば、ザックを下ろす手間を省けます。これらのアイテムを前面に配置することで、背中への負担を分散させ、走行中のザックの揺れを軽減します。
今回選んだのは、ミレーの「インテンス ウルトラ 15」。15Lの容量は、必須品、防寒着、補給食などを余裕を持って収納できます。前面にはボトル用を含む8つのポケットがあり、レース中に必要なものを整理して収納できます。ストレッチメッシュ素材が体にフィットし、荷物の重心が高く設計されているため、走行中の揺れを最小限に抑えます。
レインウェア:雨を防ぎ、快適さを保つための選択
ミレーのアドバイスでは、悪天候時以外はザックに収納されることが多いため、軽量でコンパクトに収納できるレインウェアが理想とされています。トレイルランニングは運動量が多いため、着用時の動きやすさや通気性が重要です。肌触りの柔らかさ、ストレッチ性、高い透湿性・通気性に優れた素材を選びましょう。疲労時や稜線での寒さ対策として防寒着としても活用できるため、すぐに取り出せる場所に収納しておくのが安心です。
実際に選ばれたのは、ミレーの「インテンス プロ 2.5L ジャケット」と「インテンス プロ 2.5L パンツ」。これらは、十分な防水性と透湿性を持ちながら、コンパクトに収納できるため、携行性に優れています。ストレッチ性のある素材は、ランニング中の動きを妨げません。
ジャケットの前面と背面には通気孔が設けられており、衣服内の熱や湿気を効果的に排出します。これにより、発汗の多いトレイルランニングでも蒸れを防ぎ、快適さを維持できます。また、左胸のフラスクアクセスジッパーにより、ザックの上からレインジャケットを着用した状態でも胸元のフラスクにアクセス可能です。ただし、ポール収納用のクイバーを装着する場合は、レインジャケットをザックの下に着用する方が良いでしょう。
ウェア:暑さと寒さ、両方に対応するレイヤリング戦略
ミレーのアドバイスによると、ウェアが濡れると体温が奪われ、汗冷えの原因となるため、速乾性の高い素材や濡れても保温性を保つ素材を選ぶことが重要です。機能性アンダーウェアを組み合わせることで、肌のべたつきを抑えつつ、速乾性と保温性を向上させます。また、肌寒い程度の時はTシャツにアームカバーを追加するなど、着脱しやすいアイテムでこまめに体温調節を行うのが効果的です。
レース中常に着用する基盤となるウェア
長時間のレースにおける汗対策として、ベースレイヤーにはミレーの軽量で通気性に優れた「インテンス プロ ライト ショートスリーブ Tシャツ」を選定しました。さらに、肌に直接触れる部分には、汗を素早く吸収し肌から離す「ドライナミック メッシュ NS クルー」を重ね着し、汗による不快感を軽減する組み合わせにしました。ボトムスには、軽量で動きやすい「インテンス プロ ライト ショートパンツ」を着用し、アンダーウェアには「ドライナミック メッシュ ボクサー」を合わせて、汗をかきやすい部分の快適性も考慮しました。
キャップは「インテンス キャップ」を選択。日差し、汗、雨対策として、通気性に優れたモデルが選ばれました。ソックスには、長時間の行動を考慮し、足への衝撃を和らげるクッション性の高いフィーチャーズの「トレイル マックスクッション」を使用しています。
変動する気温や天候に対応するための着脱可能アイテム
気温や天候の変化に対応するため、必要に応じて追加できるアイテムを用意しました。肌寒さを感じた際には、Tシャツの上にR×Lの「シームレスアームカバー」を着用します。さらに寒くなれば、マウンテンハードウェアのアクティブインサレーション「エアメッシュロングスリーブクルー」を重ね着することで対応します。
グローブは用途別に3種類を準備。アクシーズクインの「ベンチレーションフィンガーカットグローブ」は、ポール使用時のグリップ力向上と、岩場での手の保護のためにレース中を通して着用しました。気温が低下した際には、保温性に優れたエクストリミティズの「メリノグローブ」を重ね付けし、雨や風が強まった場合には、防水仕様のアクシーズクイン「W2P ライトシェル トリガーミトン」を使用します。これらのアイテムを組み合わせることで、気温や天候、さらにはコースの状況に応じて柔軟に対応できるようにしています。
長距離レースを走りきるためのクッション性と安定性を備えたシューズ
ミレーからのアドバイスでは、トレイルランニングではシューズが濡れる状況が頻繁に発生するため、完全に濡れないことを目指すのではなく、「濡れても速く乾くシューズ」を選ぶことが重要だとされています。また、靴下が濡れることを想定し、替えの靴下をザックに忍ばせておくことも推奨されています。
今回選ばれたシューズは、キーンの「シーク」です。長時間のレースで足への負担を軽減するため、クッション性と、起伏の多いトレイルでの安定性を重視しました。つま先部分にゆとりがあり、指を自由に動かせるほか、ニットアッパーが足にぴったりとフィットし、肌触りも快適です。通気性も優れているため、蒸れにくく、長時間のレースでも快適に着用し続けられます。また、柔らかなニット素材でありながら耐摩耗性も高く、岩場や木の根が多い山岳コースでも安心して使用できる一足です。
ポール:登り下りでの足への負担軽減に不可欠なアイテム
ミレーからのアドバイスによると、上州武尊のようなストックの使用が認められているレースでは、ポールを使うことで足への負担を大幅に軽減できます。使わない時にすぐに収納して両手を空けられるよう、ザックに外付けできる収納システムがあると非常に便利です。これにより、ポールの落下を心配するストレスも軽減されます。
ポールにはモンベルの「U.L.フォールディングポール」を選びました。軽量でコンパクトに折りたためる上、長めのグリップ設計が特徴で、握る位置を変えることで急な登りや下りなど地形に応じて柔軟に対応できます。
収納にはミレーの「インテンスクイバー」を使用。これをザックに取り付けることで、ポールを外付けして素早く収納・取り出しが可能です。これにより、ポールを使う区間と使わない区間があるレースでもスムーズな切り替えが実現します。
GPSウォッチ:タイムだけでなく、現在地と残りの距離を把握する
トレイルランニングにおいて、走行距離、現在地、標高などを確認できるGPSウォッチは、レース中のペース管理やコース状況の把握に非常に役立ちます。特に長距離レースでは、エイドステーションまでの距離や次のアップダウン区間を確認しながら、無理のないペースで走行することが重要です。事前にコースデータを登録できるモデルであれば、ルートから外れた際にアラートで知らせてくれる機能も利用でき、道迷いを防ぐ上で大変有効です。
今回使用したのはCOROSの「APEX 2 Pro」。このGPSウォッチは、現在地、走行距離、標高などをリアルタイムで確認できるため、自身の位置とペースを正確に把握しながら走ることが可能です。GPS使用時のバッテリー持続時間は最大66時間と長く、長時間のレースでも安心して使用できます。
コースデータを事前に登録しておけば、ルートから外れた際に警告を発する機能も備わっています。さらに、標高プロファイル機能により、ルート全体の高低差や、登り区間における現在の位置を容易に確認できます。これにより、残りの登り距離を把握し、今後のペース配分や補給計画を立てる上で貴重な情報となります。
安全なレースを支える必携小物類
トレイルランニング大会では、万一のトラブルに備えて様々なアイテムが必携品として指定されています。これらはレース中に頻繁に使うものではないかもしれませんが、怪我、体調不良、悪天候、道迷いなど、不測の事態から身を守るために必要不可欠です。大会に出場する時だけでなく、普段の登山やトレイルランニングにおいても、山に入る際にはこれらの装備を準備しておくことが推奨されます。
夜間走行に不可欠な照明装備
夜間の走行に備え、ヘッドライトは2つ(レッドレンザー H8RとMH5)、そしてフラッシュライト(ネイサン ストローブライト)を用意しました。
不測の事態に備えるトラブル対策装備
トラブル発生時に対応できるよう、ファーストエイドキット、ポイズンリムーバー、テーピングテープ、エマージェンシーブランケット、携帯トイレ、ココヘリ、そして熊鈴(東京ベル クリップベル)を準備しました。
その他の不可欠な持ち物
その他、スマートフォン、スマホ用モバイルバッテリー(CIO SMARTCOBY SLIM 5000mAh)、そしてエイドでのドリンク提供に使うカップも忘れずに用意しました。
走りながら効率的に摂取できる補給食の選択
長時間のトレイルランニングでは、エネルギー切れを防ぐために、走行中でもこまめに補給を行うことが重要です。ジェルだけでなく、固形食や飲料タイプなど、種類や味が異なるものを組み合わせて持っていくことで、同じ味に飽きることを避け、継続的な摂取を可能にします。
レースの終盤になると、疲労や胃腸の状態によって、それまで問題なく摂取できていた補給食が受け付けられなくなることがあります。そのため、序盤から一つの補給食に頼りきるのではなく、「終盤でも食べられるもの」を意識して準備することが肝心です。
今回準備した補給食は、エネルギー系としてANDO_、オレは摂取すジェル、パラチノース ワラビート、おいエナ。サポート系として塩熱サプリ、アミノバイタル プロ、MAGMA アスリートバーリィ。非常食としてカロリーメイトです。
補給計画としては、3種類のジェルと「おいエナ」を組み合わせて摂取します。一般的にジェルは30~45分に1個が目安とされますが、今回はおいエナを水に溶かして水分補給と同時にエネルギーも摂取することで、ジェルは1時間に1個を基本としました。その他、発汗で失われる電解質補給のため「塩熱サプリ」は1時間に1個、アミノ酸補給の「アミノバイタル プロ」と、大麦若葉由来成分を含むサプリメント「MAGMA アスリートバーリィ」はそれぞれ4時間に1個を目安に補給します。これらは長時間のレースにおけるコンディション維持と胃腸トラブルの軽減を目的としています。「カロリーメイト」は、通常の補給とは別に、予定通り補給できなかった場合や、万が一の遭難時に備えた非常食として携行しました。