盛岡の隠れた名店「里伊」:絶品煮タコ刺しとももどりを巡る美食の旅

近年、世界の旅行者から熱い視線を浴びる都市として、ニューヨーク・タイムズが選出する「今年訪れるべき世界の52カ所」は、その影響力において計り知れません。2023年には、日本の盛岡市がこの権威あるリストで第2位という高評価を受け、世界中の注目を集めました。北上川が街を潤し、遠くには雪を抱く雄大な岩手山がそびえ立つ盛岡は、洗練された建築物が並ぶ美しい街並みが訪れる人々を魅了します。本稿では、この魅力あふれる街の知られざる美食の宝庫を巡る旅へと誘います。
ニューヨーク・タイムズが盛岡を選出した理由の一つに、ジャズ喫茶から蕎麦屋まで、多種多様な飲食店が充実している点が挙げられます。今回は、数ある名店の中から、特に注目すべき食事処に焦点を当て、盛岡の食文化の深掘りを試みます。野球選手の大谷翔平選手ゆかりの地を巡る企画ではありますが、盛岡における大谷選手の具体的な足跡に関する情報は乏しいため、今回は彼の思い出の場所ではなく、純粋にこの地の美食に光を当ててご紹介します。彼が高校時代に幾度となく訪れたであろうこの街の食の魅力を、存分にお伝えできればと思います。
まずご紹介したいのは、盛岡の食通たちが秘密にしたがる名店「里伊(さい)」です。地元では「ロビンソン酒場」と称されるこの店は、賑やかな中心街から離れた住宅地にひっそりと佇んでいます。まるで孤島に漂着したロビンソン・クルーソーのように、人里離れた場所にぽつんと灯る明かりは、まさに隠れ家の雰囲気。最初は常連客数人だけの小さな店かと思いきや、店内は予想外に広々としており、カウンター席はもちろん、テーブル席も多数設けられ、客で賑わっていました。その活気に驚きつつ、早速料理を注文しました。
「里伊」の魅力は、一人客にも嬉しい「ハーフサイズ」のメニューが豊富なことです。限られた量で多種類の料理を味わえる心遣いに感激し、「宮古浜煮タコ刺し(ハーフ)」を注文しました。「宮古浜」という響きだけで食欲をそそられます。約20年前にも宮古浜を訪れたことがありますが、その後、震災で大きな被害を受けたと聞きます。その地で丁寧に煮込まれたタコは、想像を遥かに超える美味しさでした。身の柔らかさは、これまでに食べたタコ刺しの中でも群を抜いており、東京の有名店にも引けを取りません。
次に試したのは、メニューにも「イチオシ」と記された「だしまき玉子ハーフ」です。盛岡から南へ約20キロに位置する紫波町の特産卵を使用し、鰹だしを効かせた逸品です。こちらも驚くほど柔らかく、箸で持ち上げようとすると崩れてしまいそうなほど。その食感と甘さのバランスが絶妙で、あっという間に完食してしまいました。紫波町と聞くと、東京・原宿にある「しゃぶ膳 紫波」を思い出します。こちらも「ロビンソン酒場」のような路地裏にあり、名物の「タコしゃぶ」は宮古産ではないかもしれませんが、「里伊」との不思議な縁を感じさせる夜となりました。残念ながら、「里伊」は近日移転のため8月は臨時休業とのことですが、新しい店舗がどのような「ロビンソン酒場」となるのか、今後の展開が非常に楽しみです。