視力維持の重要性と眼科疾患の予防:生涯にわたる目の健康を守る





生涯にわたる視覚の維持:目の健康を守るための提言
一生涯の視力を守るための眼科教室:新連載が始まる(前編)
「最近、目がかすむ」「見えづらい」といった症状は、年齢を重ねると共に多くの人が経験することです。しかし、これらの症状は、単なる老眼だけでなく、緑内障や加齢黄斑変性、病的近視といった、放置すると失明に至る可能性のある疾患の兆候であることも少なくありません。これらの病気の多くは、初期段階では自覚症状がほとんどなく進行するため、早期発見が非常に重要です。本連載では、近視研究の最前線で活躍する「総合眼科医」である大野京子教授が、生涯にわたって良好な視力を維持するための最新の医学的知識と、具体的な予防策をわかりやすく解説していきます。
「見える」力を守る:今こそ始めるべき目の総合チェック
東京科学大学大学院医歯学総合研究科の眼科学分野で教授を務める医学博士、大野京子先生は、横浜市立大学医学部を卒業後、東京医科歯科大学(現在の東京科学大学)の准教授を経て、2014年より現職に就かれています。眼科専門医として、また日本眼科学会の専門医指導医として、さらに日本近視学会の理事長として、多岐にわたる活躍をされています。先生の専門は網膜・視神経疾患と強度近視であり、強度近視や病的近視研究においては世界を牽引する第一人者として、「近視医療の女王(クイーン・オブ・マイオピア)」と称されています。彼女は、様々な眼科疾患に対して安全かつ高度な先端医療を提供しており、特に眼球部分を3次元で可視化する画期的な眼球3D MRIの開発者としても知られています。
「視覚」が人生後半の“幸福な期間”を豊かにする
私たちの目は、外部からの情報の約8割を取り込む重要な感覚器官です。長寿社会において、健康で充実した人生を送るためには、良好な視力を維持することが不可欠です。私の研究チームは、「見る力」が脳や心の健康に深く関わっていることを明らかにしました。視力低下や緑内障、加齢黄斑変性などの眼科疾患が、うつ病の症状やアルツハイマー型認知症の発症リスクを高める可能性があるのです。視力が低下すると、外出や人との会話の機会が減少することで、社会的な孤立や活動性の低下を招きます。その結果、脳への刺激が不足し、認知機能の低下や抑うつ状態に繋がると考えられています。実際に、白内障の手術を受けた高齢者の認知機能スコアが改善した事例があり、目から入る光や映像情報は、視覚機能だけでなく、脳全体を活性化させる重要な刺激として機能していることが示されています。さらに象徴的な例として、統合失調症を合併した重度の白内障患者さんの症例があります。手術前は意思疎通が困難だった患者さんが、白内障手術によって視界を取り戻した後、表情が豊かになり、自発的に会話ができるまでに変化したのです。このことは、「見えること」が単なる視力回復に留まらず、感情、意欲、社会性、さらには認知機能そのものにも深く関与していることを強く示唆しています。超高齢社会において、認知症の予防と健康寿命の延伸は重要な課題です。失明を防ぎ、目の健康寿命を延ばすことは、「見える人生」を守るだけでなく、脳と心の働きを支え、人間らしい豊かな生活を維持するための重要な医療として、眼科治療が今後ますます大きな役割を担っていくと確信しています。