六本木ヒルズアリーナで長年にわたり開催されてきた日本酒イベント「CRAFT SAKE WEEK」が、今年で記念すべき10周年を迎えました。この祭典は、元プロサッカー選手である中田英寿氏が主宰を務め、日本酒の可能性を追求し、毎年内容を洗練させてきました。今や他の追随を許さない、魅力的な日本酒イベントとして業界内外から高い評価を得ています。この10周年を機に、中田氏のイベントに対する深い思いと、その運営の裏側にある工夫について、全3回の連載でお届けします。今回は、参加酒蔵の選定プロセスや、酒蔵へ提供される貴重なデータについて詳しくご紹介します。
「CRAFT SAKE WEEK」の大きな特徴の一つは、そのユニークなテーマ設定にあります。今年は13日間にわたり、毎日異なるテーマで10蔵ずつ、合計130の酒蔵が参加しました。これらの酒蔵はどのように選ばれるのでしょうか?中田氏によると、毎年全国の蔵元からお酒を募り、約400銘柄をテイスティングした上で、厳選された130銘柄が選ばれます。選定プロセスには、中田氏自身やJCSCのスタッフ、さらには利き酒師、ソムリエ、シェフといった専門家に加え、一般の参加者も加わります。これは、単に品質の欠点を評価するのではなく、消費者が本当に美味しいと感じ、購入したいと思うお酒を選び出すための試みです。ラベルを隠さないブラインドではない試飲方法を採用しているのは、ラベルや瓶のデザインも、お酒を選ぶ上で重要な要素であるという中田氏の考えに基づいています。
中田氏は、酒蔵への負担を軽減するため、参加酒蔵から出品料を徴収しない方針を貫いています。また、毎日異なるテーマを設定することで、来場者は多様な日本酒の世界を楽しむことができ、蔵元同士の新たな交流も生まれています。イベント終了後には、中田氏が蔵元たちを連れて打ち上げを行い、そこで新しい出会いやアイデアが生まれることを期待しています。来場者からは、「毎日テーマが違うのが面白い」「全国の日本酒を飲み比べできるのが楽しい」といった声が聞かれ、毎年訪れるリピーターも少なくありません。初年度から参加している「若波」若波酒造の今村友香氏は、イベントの活気と、若い世代や外国人来場者の多さに感銘を受けています。また、他の蔵元と出会える貴重な機会としても捉えています。
「CRAFT SAKE WEEK」は、その運営体制においても高い評価を得ています。蔵元からは、「出品料がなく、開栓したお酒は全て買い取ってもらえる上、会場では全てが準備されており、法被一枚で参加できる」といった感謝の声が上がっています。専属スタッフによる手厚いサポート体制も、蔵元にとって大きな魅力です。スタッフの中には利き酒師の資格を持つ者もおり、各酒蔵のお酒を深く理解した上で来場者に説明し、提供しています。イベント終了後のアンケートで寄せられた意見が、翌年には改善されているという点も、JCSCのプロフェッショナリズムを示しています。行列の改善策として導入された事前注文システムなど、数値に基づいた継続的な改善が、来場者体験の向上に繋がっています。
さらに、中田氏は3年ほど前から、各蔵の売上ランキングや味わい別のカテゴリー順位など、詳細なデータを数値化し、参加蔵元にフィードバックしています。「伯楽星」新澤醸造店の新澤巌夫氏は、このデータが「相当の金額を払わなければ得られないほどのビッグデータ」であり、蔵元として活用しない手はないと語ります。データには、客層や気温、お酒の味わいと位置づけ、売上上位の蔵のコイン数、自社のランキングなどが含まれ、考察が添えられています。新澤氏は、このデータから日本酒業界に求められるのは、マーケットを見る目とチャレンジ精神だと感じ、積極的に限定酒の出品や高額商品の販売など、新たな挑戦を続けています。彼の「残響Super7おりがらみ」や「零響 Absolute0」といった高価格帯の商品は、イベントで大きな話題となり、成功を収めています。
「十四代」の高木辰五郎氏も、フィードバックされるデータが蔵元の刺激になっていると評価しています。特に、途中完売を防ぎ、来場者が目的のお酒を楽しめるようにするため、多くの本数を準備するきっかけになっていると言います。一方、「而今」の蔵元杜氏である大西唯克氏は、ランキングにはこだわらず、来場者との直接的な交流や彼らの声、表情を大切にしています。彼は、来場者の喜びを最優先に考え、毎年限定酒を提供することで、顧客との特別な関係を築いています。このように、蔵元によってデータの受け止め方や活用方法は異なりますが、中田氏はその多様性を尊重し、データが蔵元の成長と日本酒業界全体の活性化に繋がることを願っています。中田氏の緻密な計画と情熱が、「CRAFT SAKE WEEK」を単なるイベントではなく、日本酒の未来を創造する場へと昇華させています。
「CRAFT SAKE WEEK」は、その卓越した運営と革新的なアプローチにより、日本酒文化を牽引する重要なプラットフォームへと成長しました。中田英寿氏の明確なビジョンと、参加する蔵元、スタッフ、そして来場者全員の情熱が融合し、毎年新たな価値を生み出し続けています。このイベントは、日本酒の魅力を広めるだけでなく、蔵元同士、蔵元と消費者、そして蔵元と料理人をつなぐ、人と人の交流の場としても機能しています。来場者からの声やフィードバックを真摯に受け止め、常に改善を重ねることで、このイベントはこれからも日本酒業界の発展に貢献し、多くの人々に感動と喜びを提供し続けることでしょう。