「三十日」名字の謎:読み方「みとおか」に隠された歴史とルーツ

日本の名字は、その響きや表記に豊かな歴史と文化が息づいています。特に、一見するとその読み方が想像できない「難読名字」は、私たちをその成り立ちや背景へと深く誘い込みます。本稿では、名字研究の第一人者である森岡浩氏の解説を基に、「三十日」と書いて「みとおか」と読む名字の興味深い謎に迫ります。この名字が持つ意外な由来と、それがどのようにして現代まで受け継がれてきたのかを紐解き、日本人の名字が織りなす多様な物語の一端をご紹介します。
現在のカレンダーでは、2月を除くほとんどの月が30日または31日を持っています。しかし、江戸時代以前に日本で用いられていた太陰太陽暦では、月の周期に基づいていたため、1ヶ月は29日か30日で構成されており、31日という日は存在しませんでした。この旧暦において、30日は常に月の最終日を指し、「みそか」という言葉で表されていました。年末を「おおみそか」と呼ぶのも、この「みそか」が由来です。しかし、「三十日」という名字の場合、多くは「みそか」とは読みません。むしろ、「みとおか」と発音されることが一般的です。これは、「三」を「み」と読み、「十日」を「とおか」と読むことに由来すると考えられています。
この「三十日(みとおか)」という名字の起源は、暦の「三十日」とは直接的な関係がないと森岡氏は推測しています。むしろ、元々存在していた「みとおか」という音に対して、後から「三十日」という漢字が当てられた可能性が高いとされています。この名字は岡山県岡山市や広島県呉市に多く見られます。興味深いことに、岡山市には「水戸岡」や「三戸岡」といった名字も存在します。日本の歴史において、家族が分家する際に、同じ読み方を維持しながら漢字を変える慣習が広く見られました。このことから、岡山市の「みとおか」一族が、漢字を「三十日」に改めた背景があるのかもしれません。また、広島県呉市の近くにある江田島には「御堂岡(みどおか)」という名字があり、呉市の「三十日」姓も、この「御堂岡」から漢字を変えた可能性が指摘されています。このように、名字の漢字表記の変遷には、地域性や家族の歴史が色濃く反映されているのです。もちろん、例外として「三十日」を文字通り「みそか」と読むケースも稀に存在します。
名字の背後には、それぞれの家族が歩んできた道のりや地域の文化、さらには歴史の大きな流れが隠されています。難解な読み方を持つ名字は、単なる文字の組み合わせ以上の意味を持ち、私たち自身のルーツやアイデンティティを探求するきっかけを与えてくれます。森岡浩氏の研究は、そうした名字の奥深さを解き明かし、日本という国の多様な歴史の一面を教えてくれる貴重なものです。