星野リゾートOMO5東京大塚、「都電ルーム」誕生秘話:顧客の小さな発見から生まれた人気客室

星野リゾートの多様な宿泊施設ブランドの中でも、「OMO5東京大塚」の「都電ルーム」は、お客様の些細な発見から生まれたユニークな成功事例です。この部屋は、単なる宿泊空間を超え、地域の象徴である都電への深い愛情と、ホテルスタッフたちの情熱、そして革新的なデザインが融合した結晶と言えるでしょう。
お客様の発見から生まれた「都電ルーム」の物語
2020年、活気あふれる東京・大塚に位置する「OMO5東京大塚」では、その大きな窓が特徴の客室「やぐらルーム」が人気を集めていました。特に602号室では、清掃スタッフがある日、窓に付着した多くの子どもの手垢に気づきます。不思議に思い、その手垢の位置から窓の外を覗くと、ホテルの真下を東京唯一の路面電車「さくらトラム」、通称「都電」が鮮明に走り抜ける光景が目に飛び込んできました。子どもたちが夢中になって都電を眺めていたという、この小さな発見こそが、「都電ルーム」誕生の大きなきっかけとなったのです。
当初、支配人の磯川涼子氏を中心に、費用を抑えながら都営交通から提供された降車ボタンやつり革などの実物品を用いて、5室限定の「都電Roomステイプラン」がスタートしました。このプランは予想を上回る好評を博し、半年間の予定が1年以上継続されるほどの成功を収めます。しかし、この初期の都電ルームは「子ども向け」という側面が強く、大人のお客様には物足りなさを感じさせてしまうという課題も浮上しました。
この課題を乗り越えるため、磯川氏と後任の2代目支配人、渡邉萌美氏は、「誰が泊まっても満足できる客室」を目指し、本格的な「都電ルーム」プロジェクトを始動させます。テキスタイルデザイナーの氷室友里氏を監修に迎え、デザインの専門的な視点を取り入れることで、プロジェクトは飛躍的な進展を見せます。しかし、デザイナー起用による費用増加は避けられず、社内での説得という大きな壁に直面します。それでも、これまでの宿泊実績、スタッフとデザイナー、そして地域が一体となって作り上げたデザインイメージを提示することで、ついに社内の承認を得ることができました。
そして完成した「都電ルーム」は、客室全体が都電のデザインに囲まれた、まさに夢のような空間となりました。ロールカーテンからカーペット、バスルームに至るまで、都電の魅力が散りばめられています。ソファには操縦レバーを模したクッションが置かれ、壁には運転席からの風景が広がり、用意された運転士の帽子をかぶれば、まるで本物の運転士になったかのような没入感を味わえます。この進化を遂げた客室は、かつて子ども中心だった客層に大人同士の宿泊を呼び込み、リピーターも続出。「まだ帰りたくない」という声が聞かれるほど、お客様に深い感動を与えています。
誕生から4年以上の歳月が経った今も、「都電ルーム」は予約困難な人気客室であり続けています。小さな手垢から始まった一つの気づきが、多くの人々を魅了するOMO5東京大塚の象徴的な存在へと成長したこの物語は、細部に宿るお客様への配慮と、それを形にするための情熱が、いかに素晴らしい体験を生み出すかを私たちに教えてくれます。
この「都電ルーム」の成功事例は、顧客の何気ない行動や小さな手がかりが、革新的なサービスや商品開発の源泉となることを示しています。顧客のニーズを深く洞察し、それを具体的な形にするための情熱と、社内外の関係者を巻き込むリーダーシップが不可欠です。私たちも日々の業務において、固定観念にとらわれず、周囲の小さなサインを見逃さない感性を養い、それを新たな価値創造へと繋げる視点を持つべきだと強く感じさせられます。